【KAC20244】大ケガ

蒼井星空

大ケガ

 僕はケガをした。

 大ケガだ。

 大の大人でも泣き叫ぶくらいの大ケガだ。

 魔法でも簡単には治せないくらいのケガだ。

 こんな大ケガに耐えて病院まで歩いて行った僕は凄い。


 受付のお姉さんも、待合室で様子を聞きに来たおばちゃんも、呼ばれて入った部屋にいた治療術師のおっちゃんもとても驚いていた。

 こんなケガをして1人で歩いてきたの?って。


 だから僕は言ってやったんだ。

 これくらいならなんとか耐えれるんだけどねって。

 少し顔を斜めに傾けながら、かっこよく言ってやったんだ。


 おっちゃんはとても驚いていたよ。

 なら治さなくてもいいかな~なんて言ってきたからちょっと焦ったのは内緒だ。

 奥歯を噛み締めながら、僕は言う。

 いや、できれば治してほしいと。

 耐えれるけど、これじゃあ寝れないからって。


 おっちゃんはその言葉に納得したのか、僕を処置台に乗せる。

 軽々持ち上げられてひょいって。

 痛いっつーの。

 

 そうして僕は横になる。

 横になったことで感覚がケガに集中してしまったのか、なんかきつくなってきた。

 頼む早くして。


 そんな僕におっちゃんが薬を飲ませてくれる。

 痛み止めらしい。

 気休め程度にはなるかな?


 そして僕のケガを診ながらおっちゃんが呟く。

 これなら処置してから魔法をかければ治りそうだなって。


 助かった。

 何とか治してもらえそうだ。

 

 僕は痛みに耐えながら、期待感を込めた視線をおっちゃんに送る。

 おっちゃんは大丈夫だと言わんばかりに暖かい視線を返して、頷いてくれた。


 僕は安心してしまって寝てしまった。

 もしかしたらさっき飲んだ薬のせいかもしれない。




 次に起きたとき、僕はさっきとは違う部屋にいた。

 頭が少しぼーっとする。


 僕が体を起こすと、それに気付いたおばちゃんに止められる。


 治ったのかな?

 そう思っているとさっきのおっちゃんが入ってきた。


「よく頑張ったな。無事治ったぞ」


 よかった。


「それにしてもよう耐えたのぅ。感心じゃ」


 それはそうだろう。

 僕は頑張ったんだ。

 偉いだろう?


「ついでに他の傷も一緒に治しといたわい」

 どうりで楽になったわけだ。


「なんでこんなケガをしたのかはわからんがな」

 うっ……。


「まぁお大事にな。歩けるようになったら帰ってよし」

 感謝感謝。


「お前の親には言っとくからな」

 ガ――――――ン



「大したケガじゃなかっただろ!?」



「馬鹿言うな。骨折のどこが大したことないんじゃ!」



「でも1人で歩いてこれる程度だよ!!」



「やせ我慢しとっただけじゃろう!」



「頼むよ……母ちゃんに心配かけたくないんだ」



「どうせ隣の家の果物でも盗ろうとして木から落ちたんじゃろう!」

 バレてる……。



「でも……」


 僕は一生懸命たいしたことなかったと言い張るが、あっけなく迎えに来た親に全てを伝えられてしまった。

 そうして僕は怒れる母ちゃんに食器洗い10日の罰を命じられた。

 

 罰を終えた後、指先に残ったささくれだけがちょっぴり痛かった……。

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