パンダ明神
カニカマもどき
神田明神にて
東京の、神田明神へお参りに出かけたときのことです。
暖かい、良い天気の日でした。
お祭りとかイベントがない日でもけっこう人が多いな、などと思いつつ。
お賽銭箱に五円玉を投げ入れ、うろ覚えの作法で参拝を終え。
顔を上げたとき。
私の目の前に。
なんと、パンダがいたのです。
「……パンダ? パンダなんで?」
冷静さには定評のある私でも、さすがにちょっと驚き、そう呟きました。
他の人たちは、パンダに気が付いていないのだろうか。
そう思って周囲を見渡すと、つい先ほどまで人がわんさかいたはずの境内に、人っ子一人見当たりません。またまた驚きです。
しかも。
「
なんとなんと。このパンダ、喋るのです。
なんだかよく分からないことを。
どうやら私は、他の人には感知できない、結界のような場所に招き入れられてしまったようです。
移動した感覚もなく、建物など、周囲の景色にも変化はみられないのですが。
あ、いや。一つ変化がありました。
賽銭箱の上方、参拝のための鈴と紐があった場所に、今は、タイヤがぶら下がっています。
パンダ明神なるものは、そのタイヤに体を乗せ、ゆらゆらと揺れながら、こちらを見ているのです。
「さあ、神たるワタシに、笹を捧げよ。さすれば、望みをかなえるための一助になったりならなかったりしてやろう」
パンダ明神が、なんだかあまりありがたくないお言葉をささやきます。
というか、笹が必要なんだ。
笹はパンダの好物ですが、パンダの神様も同様のようです。
「でも、そんな都合よく笹を持ち歩いてるわけ……」
言いかけて、私は気付きました。
実はさっき、笹かまぼこを買って、バッグに入れていたのです。
なんたる偶然……いやむしろ、これを持っていたから、
笹かまぼこの笹を、私はパンダ明神に捧げました。
パンダ明神はそれをゆっくりと噛みながら、いろいろなことを話してくれました。
パンダのこと。
笹のこと。
パンダ明神は、神田明神から生じたダジャレではないこと。
「ワタシ……パンダ明神は昔からこの地にいて、人々から崇め奉られていた。月日が経つうちに、パンダ明神という言葉がなまって、神田明神とよばれるようになった」
パンダ明神はそう言いました。
本当かどうかは分かりません。
その後。
「笹、これだけじゃ足りぬ」
パンダ明神が、そのようなワガママをのたまうので。
「じゃあ、こうしましょうか」
私は定期的に、笹かまぼこを持って、神田明神を訪れるようになったのです。
パンダ明神 カニカマもどき @wasabi014
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