おばあちゃん
歩
家出の夜に
公園のベンチにいつも座っているおばあちゃんがいた。
いつもニコニコ、公園で遊ぶ子供たちを見ていた。
寒い冬の風吹く時も。
夏の日差しが照り付けていても。
だいたい、編み物をしている。
落ち葉が風に舞う秋に。
花見に賑わう春にも。
散歩のわんこが寄っていって尻尾をぶんぶん振っている。
猫が来ては、一匹、二匹と、おばあちゃんの横に、膝に幸せそうな顔で寝そべっている。
おばあちゃんは避けるでもなく、声をかけるわけでもなく、ニコニコ見ている。
なんだかほっとする。
いてくれるだけで、笑顔見るだけで、心がとげとげする時も癒された。
私が幼稚園のころから、気付いた時にはもう、そこに座っていたおばあちゃん。
反抗期で荒れていた時のこと。
親の顔が特に鬱陶しく思えて。
何かいわれても、何をされても、顔も見たくない、話したくもないって。
自分でも分かっていた、それはいけないことだって。
もうちょっと優しくなれてもいいのに。
でも、やっぱり親の顔を見ると嫌悪感しか湧かなくて。
乱暴な言葉におびえるお母さんの顔を見ると、それがかえってまた……。
しまいには定番の家出。
友達の家に転がり込んだけど、友達のお母さんにお節介焼かれるのも鬱陶しくなって、そこも飛び出した。
当てもなくなった夜。
公園に入ったら、あのおばあちゃんはまだそこに座っていた。
初めて、猫がそうするように隣に座った。
いつの間にかくどくどと愚痴を垂れていた。
情けないな。
止まらないそれを、おばあちゃんはいつものニコニコした顔でずっと聞いてくれていた。
なんか、話したらすっきりした。
おばあちゃんはそっと、私の手をさすってくれた。
すっと心が落ち着いた。
そっと家に帰ったら、心配そうにお母さんが出迎えてくれた。
何もいわず、夕ご飯を温め直してくれた。
私はボソッと「ごめんなさい。ありがとう」
お母さんはニッコリ笑ってくれた。
今でもおばあちゃんはそこに座っている。
私だけにしか見えない、おばあちゃん。
おばあちゃん 歩 @t-Arigatou
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