第8話 採寸と誤解
「———起きたか? 早く採寸に行こう?」
「分かった、分かったから落ち着け……まだ朝の6時だぞ……」
俺は子供のようにハイテンションなクラリスに起こされ、眠気MAXの状態で呟く。
正直朝には弱い方なので、多分今からベッドに戻ればの◯太にも勝るとも劣らない速度で寝れると思う。
しかし……もう気分上々なクラリスはそれを許してくれない。
俺は仕方なくベッドから降りて朝ご飯を用意……しようと思ったが、どうせ雲母の家で早めの昼食を食べるのでやめておく。
「アイツん家の飯は美味いからなぁ……」
「ソウスケどうしよう……楽しみで全然落ち着かないんだ……!」
「子供かて。採寸なんか何も楽しくないぞ」
まぁクラリスの採寸を見ている側は、男限定(一部女子を含む)で楽しいと思うが。
「だがな……ソウスケ。何でも試着できるというではないか。その時にせいふくを着るのが楽しみでしょうがないんだ……!」
「へぇ……」
「それにあの制服は私の世界のどの服よりも着心地もいい!」
「ほーん……」
俺的には誰も普通でそこまでなのだが……とにかくクラリスが物凄く楽しみなのだけは伝わった。
これは……少し早めに行ってもいいか聞いておいた方な良さそうだな……。
俺はソファーにソワソワしながら座っているクラリスを横目に、雲母へとL◯NEを送った。
「———大きいな……」
「俺の家が小さくて悪かったな」
「い、いや、そういうことでは……!」
俺が雲母の豪邸を見てポカンとしているクラリスを揶揄うと、慌てて首をブンブン横に振って否定してきた。
しかし笑いを堪える俺の姿を見て揶揄われていると気付いたらしく、むっと頬を膨らませた。
「ソウスケ……!」
「くくっ、悪い悪い。ただ慌てる姿が可愛くてな」
「なっ———!? そ、そんなことを言って誤魔化そうとしても無駄だぞ!」
「———ねぇ、痴話喧嘩は他所でやってくれない?」
そう声を掛けられて声の主の方を向けば、雲母が此方を呆れたような目で見ている。
しかし、そんな雲母にクラリスが真正面から言い返した。
「む……昨日は逆に2人がやっていたじゃないか」
「あ、あれは……べ、別に痴話喧嘩ってわけじゃないわよ。というか早く行くわよ」
自分が不利だと気付いた雲母が誤魔化すように歩き始めた。
しかし直ぐにピタッと動きを止め、何故か俺を睨んでくる。
「ど、どうした……?」
「何でアンタついて来てるの?」
「は? 何でとは?」
「今から私はクラリスと採寸するのよ? アンタはついて来たらダメでしょ」
「じゃあ俺はどうすれば良いんだよ」
「知らないわよ。あ、そう言えばパパがアンタが来たら寄れって言ってたわね」
「俺は帰ろうかな」
俺が回れ右をして帰ろうとすると、何故か雲母だけでなくクラリスまでが俺を止めてくる。
「おい離せよ雲母! クラリスも何で止めてくるんだよ!」
「当たり前でしょ! 保護者のアンタがいなくてどうするのよ!」
「そうだぞ、ソウスケ! 私は楽しみすぎて帰り道を覚えてないぞ!」
「何か最初に比べてポンコツ具合が露呈して来たな」
しかしクラリスが帰り道を覚えていないなら帰るわけにはいかない。
……仕方ないか。
「わーったよ。じゃあ俺は雲母のお父さんに会ってくるから終わったら教えてくれ」
「分かったわ。じゃあまた後でね」
「ぜ、絶対帰るんじゃないぞ!」
「流石にもう帰らんって……」
俺は2人と別れ、仕方なしに雲母のお父さんの下へ向かった。
「…………」
「…………」
現在俺は雲母のお父さんと対面で座り、無言の時間を過ごしていた。
正直言って物凄く気まずいし今直ぐに帰りたい。
普段なら普通に話すのだが、何故かずっとお父さんが黙っているせいで俺も話せなくなっていた。
しかし、そんな沈黙を破るように雲母のお父さん———ではなくその執事の吉田さんが口を開いた。
「申し訳ありません、宗介様。旦那様はずっと貴方様を御嬢様の恋人と勘違いしておられたので……心の整理が出来ていないようなのです」
……………はい?
「ちょっと待ってくださいよ。俺が雲母の恋人……? いやいやいや……そんなわけないじゃないですか! 俺とアイツのどこが恋人に見えたんですか!?」
「……同じことを雲母にも言われた……。ただな……もう高校生にもなって、同じ日に何処か出掛けることが多々あるからそうだと思っていたんだ……!! 何なら一緒に寝泊まりもしているそうじゃ無いか!!」
雲母のお父さんが台パンしながら吠えた。
それと同時に、誤解されるのも仕方ない気がして来た。
…………あー、最近強い侵略生物が多いから任務でよく一緒になってたな。
確かに組織の本部に行く時は必ず泊まりだから誤解してもしょうがないのか。
「折角私の気に入る男が恋人になってくれたと思っていたのに……もしかしてお前たちは俗に言うセフ———」
「「んなわけないでしょうが!!」」
とんでもないことを口に出そうとした雲母のお父さんに、俺と採寸の終わりを告げに来たのであろう雲母が叫んだ。
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