第3話 父として

 海人かいと真凛まりんの能力に皆が目をうばわれている中、表情の暗い大地だいち防衛大臣に話しかけた。


「大地大臣、そういえば大臣には娘と同じ年代のお孫さんがいらっしゃいましたよね。 お孫さんはお元気ですか?」


 大地大臣は眉をぴくりと動かしながら答える。


「ええ、元気ですよ」


「それならば良かった」


 今はこれくらいにしておこう。あまり踏み込むのは良くないだろう。


 真凛まりんがこちらを見てくるので頷いてみせると、水を操るショーは終了した。

 

 矢部首相が興奮した面持ちで絶讃してくる。


「いや〜! 素晴らしかったよ、真凛ちゃん! 今やってみせたようなことをもっと大きく、大量の水でも操ることはできるのかな? 水がない所に水を生み出す事はできる?」


「やった事がないのでわかりません」


「それはもったいない! どんどんやってみて、もっと能力が強くなるように練習してみてはどうだろう? 私が、いや国をあげて練習のお手伝いをさせてもらう事もできるんですよ? なんたって真凛ちゃんは世界で初めての本物の超能力者ですからね! まるで魔法使いが現れたかのようですよ! 真凛ちゃんは我が国の宝です!」


「そんな事を言われても困ります・・・」


「まあまあ、別に今すぐに返事をしなくてもいいんですよ。 でも真凛ちゃんも、水を自在に操るのは楽しいんでしょう?」


「はい! 凄く楽しいです! 一番最初に力に気付いた時より今の方が上手に水で遊べるんです!」


「そうでしょう、そうでしょう。 練習は大事ですからね、私達のお手伝いが必要でなくとも、お家でいっぱい練習して、次はもっと凄いものを見せて下さいね。 ところで髪の色に変化が出たあとに病院には行かれましたか?」


 その質問が出た頃合いで海人が返答することにする。


「私がお答えしましょう。 病院には変化が出たあとすぐに受診しました。 精密検査をしていただきましたが、色の変化以外は特に数値的な目立った変化は確認できなかったとの事でした」


「なるほど。そうでしたか。是非とももう一度国の研究機関で精密検査をやっていただきたいものですが・・・」


「矢部首相。 娘は10才の生身の女の子です。 モルモットのように扱われるのは親として承服いたしかねます」


「水上君、わかっていますよ。 これは健康面での配慮ですよ」


「それでしたら良いのですが」


 何が健康面での配慮だ。見え透いた事を。



 更に矢部首相が発言を続ける。


「大地防衛大臣、彼女の力を見てどう思いましたか?」


「米軍や自衛隊の近代兵器とは比べるまでもないかと」 


 その回答に不満げな顔を隠しもしない首相に、宇多うだ官房長官がすかさずフォローをいれる。


「いや、たったの2ヶ月で、しかも10才のお子さんがこれほど見事に超能力を使いこなせるなんて、将来はどこまで強力な力をふるえるか、非常に楽しみですな!」


「そうでしょう! 私も楽しみで仕方がありません。   我が国の未来は明るいですよ!」


 その後も首相の独演会は続いたが、終始真凛の力をどう役にたてるかに焦点は当てられたままだった。


 第2、第3の能力者が現れる可能性についても語られたが、今の所まだ存在していないためにその話題は軽く流された。


 海人は思った。


 この流れを断ち切るには大元から変えるしかないと。この瞬間が決断のときだった。



 首相官邸への呼び出しの日から1週間後



 世論は首相周辺の裏金問題でおおいに盛り上がっている。


 清池会系議員による、政治資金パーティーの収入を政治資金収支報告書に適切に記載していなかった問題が明るみにでたのだ。


 しかも政権与党、自由満喫党の一番の大物、矢部首相には、パーティー券のキックバックによる大金の受け取り疑惑までついてきている。


 特別学校法人森田学園への口利き疑惑(とくもり問題)に加えて、度重なる疑惑、しかも今回のものは疑惑では済まない可能性が高く、退陣は秒読みと噂されている。



  2019年 8月


  首相官邸


 世論におされ、矢部首相は退陣。さらに自由満喫党では全派閥の解体が実行された。これにより、派閥の力はなかったものの、党員の人気が高かった大地防衛大臣が急遽内閣総理大臣へと指名された。


 大地内閣の誕生である。



 文部科学審議官もんぶかがくしんぎかん水上 海斗みずかみ かいとは大地首相に呼び出され、現在2人きりで会談を行っている。


「水上君、君にはしてやられたよ。 暗黙の了解として公然の秘密だったパー券問題の事をマスコミにリークしたのは君だろう?」


「いえ、なんのことだか私にはわかりかねます」


「とぼけなくてもいい。 初めは国内の新聞社も忖度そんたくして一切取り上げなかったが、米国の『ワシントンポテト紙』で取り上げられてからは、怒涛の勢いでの各社の報道合戦だったよ。 タイミング的に君としか考えられない」


「いえ、本当に私には何も・・・」


「まあいい、本題はそれじゃない。 Xウイルスによる新たな能力者が現れた」


「大地首相のお孫さんでしょうか?」


「私の孫は・・・そうだな1年後くらいに能力に目覚めそうだ。 孫とは違う人物だよ。 君は新たな超能力者の集団をどのように取り扱ったほうがいいと思うかね?」


「私の意見でよろしいのですか? 私としては同じように能力に目覚めた者を集めた学校を作ってあげたいです。 大地首相はそういう事をなさらないでしょうが、再び人間兵器として娘たちを利用しようとする者が現れないとも限りません。 子どもたちの中には力に酔いしれ力に振り回される者が出てこないともかぎりません。 その時に自分たちで考え行動出来るように、新たな指針づくりの為にも教育が重要だと考えています」


「学校か、良いだろう進めたまえ」

 

 さらに大地首相は言葉を続ける。


「そして君には新たな役職についてもらおう。能力者の対応を専門としたところだ。 名前はそうだな『bionic』(生体工学)•『ordeal』(厳しい試練)•『Xvirus』(エックスウイルス)』でB•O•X。 BOX庁長官が君の新しいポストだ。 能力者の娘をもつ君ならば真摯しんしに職務にはげんでくれるだろう」



 その後、日本中で能力者がポツポツと確認され始めた。その幅広い能力の種類から、その現象は『魔法』とよばれ、それを操る者は『魔法使い』とよばれた。


 不思議なことに魔法使いとなる者は15才以上には現れなかったため、年齢の若さもあり、隔離し特別教育する事が国により急遽きゅうきょ決定された。


 物事がなかなか決まらない日本政府にしては珍しく、BOX庁を旗振り役として異例のスピードで環境整備されていったのである。


 <了>

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父として・・・娘を護る 🔨大木 げん @okigen

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