第2話 首相官邸
2019年 7月
首相官邸
カツカツと靴音が鳴り響く廊下を抜ければ、もうすぐに
袖を引っ張られる感覚に足を止め、
「お父さん・・・ここ、なんか怖い」
「まあそうだろうな。 大人でも大抵の人間は萎縮する所だ。 しかもこれから総理大臣を始めとして多くの大臣に会うんだからな」
「お父さん、怖いから手を握っててくれる?」
「ああ、いいとも。 真凛の事はお父さんが必ず護るから安心してていいよ」
「はなさないで、ね?」
「ああ、離すものか」
閣僚応接室前に到着した。
いよいよだ。ここでの対応で今後の国の命運と娘の運命も決まってしまう。気を引き締めて挑まねば。
SPがドアを開けてくれるので、中へと入る。
「やあ、ようこそ水上君。 そして君が
そう言って
「はじめまして。 水上 海人の娘の真凛です。 よろしくお願いします」
「それじゃあ、早速だけど真凛ちゃんに水を操るところを見せてもらおうかな」
その言葉に、若干青ざめた顔を引き締めた真凛が、チラリとこちらを見る。使ってよいかの最終確認なのだろう。今さらやめる選択肢はないので小さく頷く。
大勢のこの国の権力者の前で、果敢に真凛が挑む。
水が宙に浮き自由自在に動き回り、様々な姿を形どる。
その間、
いずれも首相の信頼が厚い、清池会のメンバー達だ。この反応は良くない。
やはりこうなってしまったかと、内心で憤る海人。
清池会のメンバーはタカ派が多く、ゆくゆくは核武装が悲願の者が多いのが特徴だ。
海人は別にそれはそれで構わないと思っている。アメリカの核の傘によって守られている現状と大差がないからだ。
周辺諸国が核武装をしている現状を
だが現実にはIAEAにより核燃料は厳しく管理されており、国民感情も核武装を望んでいない。
業を煮やした清池会のメンバー達が核の代わりとなるものとして超能力に目を付ける可能性は十分にあったのだ。
そしてそれが現実に目の前でふるわれると・・・
恐れていた通り、超能力による人間兵器を手に入れたつもりになっているようだ。
今はまだ曲芸の域を出ないものでしかないのだが、人は現実を受け入れずに、見たいものを見る生き物だ。
仮に能力が、神話やアニメのように大津波を召喚する程の威力を持つまでに成長したとして、実際に敵国相手に使用したとすると真凛の心はどうなる?
犯罪を犯した死刑囚の刑の執行でさえ命を奪うという事に忌避感をもつものなのだぞ?
能力の使用を拒否されたらどうするつもりだ?
私と妻を人質にでもして強制するのか?
数多くの罪の無い命を己の手で刈り取るなどしたら、間違いなく真凛の心は壊れる事だろう。
そんな事は絶対にさせない。
――――つづく――――
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