【KAC20245】 父として・・・娘を護る

🔨大木 げん

第1話 愛娘


  2019年 1月


 日本近海の無人島に外宇宙より飛来した小隕石しょういんせきが落下した。


 その隕石いんせきは日本の研究機関に引き取られたが、研究開始以降、原因不明の熱病が発生し次々と感染者を増やしていった。


 後にその感染源となる未知のウイルス、通称エックスウイルスが発見された。

 

 子供が重症化することはめったに無いのだが、まれに高熱を出す者もおり、その中から熱が引くと特徴ある変化をおこす者がでてきた。


 髪や目の色が変化し、いわゆる超能力のような特殊な力を発現したのだ。


 

  2019年5月



 文部科学審議官もんぶかがくしんぎかん、科学技術担当の水上 海人みずかみ かいとは現在10才になる愛娘、真凛まりんの事で大きく悩んでいた。




 真凛まりんは5月にエックスウイルスに感染し高熱を出してしまった。海人かいとと妻のかおりはとても心配したが、栄養を取って寝る以外の対処法はなく、5日後には完全に治った。


 ところが、エックスウイルス感染症は治ったのだが、何かの冗談かと思うような出来事がおきた。


 髪の毛と瞳の色が一晩にして水色に変化したのだ。


 常識では考えられない事態が起きてしまった。


 しかも娘が言うには『水』を操る事ができるようになったらしい。感覚的に出来ると分かるのだという。

 

「見ててね」


 そう言うとコップの水を宙に浮かび上がらせクラゲやイルカ、犬など色々な形へと変化させ始めた。


 しばらくの間、黙考していた海人かいとは真凛へと告げる。


「いいかい真凛。 その水を操る能力の事はみんなには内緒だよ。 お父さんとお母さん、真凛だけの秘密だよ。 お友達にも話さないでね」


「うん、わかった。 内緒にしとくね」



 その後、病院で能力の事は伏せたまま、真凛の精密検査をやってもらったが、色の変化以外は特に異常は見当たらなかった。


「あなた、学校はどうしましょう?」


「元気になっているからには、これ以上休ませるわけにはいかんだろうな。 明日俺が校長先生と担任の先生に能力の事は伏せたまま事情を話すよ。 なに、こういう時には俺の肩書きが活きるのさ。 肩書きで髪と瞳の事も信用させてみせるよ」


 結果として学校での対応は問題なかった。


 しかし平穏無事に過ごせたのはわずか数日であった。



「あなた!このワイチューブの動画を見て!」


 ただ事ではない口調の妻からの電話に、異変を感じ慌ててワイチューブ動画を見てみる。

 

 ・・・なんてことだ。



 そこには水色の髪の可愛い女の子が水を自在に操っている様子が映っていた。


 しかも既に再生回数は10万回を超えている。


 もはや取り返しがつかない。


「真凛・・・」



 仕事を早々に片付け足早に帰宅した海人は、努めて冷静に、真凛に聞いてみる。


「真凛、どうして秘密の約束を破ったんだい?」


「だって、お友達が髪の毛と目の色の事で、私の事嘘つき呼ばわりするから・・・」


「お友達っていうのはお隣のあきら君かい?」


「ううん、違うよ。 明君はアニメのヒロインみたいで可愛いって言ってくれたんだ」


 真凛はポッと頬を染めながらそう言うと、早口に続きを話す。


「土田君っていう男の子がね、私の髪の色は目立つ為にずるして染めてるってしつこく言ってきてね、色々説明しているうちに水の事もつい言っちゃったんだ。 そしたらね、ますます嘘つきって言われて、ほんとなら、俺の目の前でやってみせろって言われたから、水で遊べるところを見せてあげたんだよ」


 そこを誰かに撮られてワイチューブにあげられたんだな。クソガキめ。


「そうだったのか。 髪の色がこんなに変わったのに黙ったままっていうのも難しいから仕方ないか」


「ごめんね、お父さん」


「いや、真凛は約束を守ろうとしていたんだろう? そういう事情があったなら、もう気にしなくて大丈夫だよ」


 しかしこうなると、あの男の目に留まるのも時間の問題か。真凛をまもるために、今のうちに使える手は全部うっておかないとな。まずは今まで以上に情報収集をしなければ・・・



  

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