致命的なささくれ

緋色 刹那

🩸😈

 エンバーはさびれた街でレストランを経営している。

 毎日、赤字続き。人を雇う余裕もない。接客、料理、皿洗い、掃除……全て、エンバーの仕事。手は荒れ、ささくれだらけだった。


 ある日、赤いスーツの男が来た。

 男は「ジェームス」と名乗り、怪しげな契約を持ちかけた。

「最近、運が悪いと感じませんか? 私と契約して、悪い運を抜き、良い運を手に入れましょう」

 エンバーはわらにもすがる思いで、契約した。

「運は血管を通り、全身に巡ります。傷があると、外へ出てしまう。ささくれ程度なら平気ですが、くれぐれも大きな怪我をなさらないよう」

 ジェームスはエンバーの腕に針を刺し、輸血パックから血と共に運を与えた。


 数日後、レストランの経営は持ち直した。

 それどころかさらに利益を上げ、五つ星レストランにまで成長した。

 エンバー自身も美しく知性にあふれた女性へ変わった。何をしても成功する。金持ちと結婚し、子供にも恵まれた。

 エンバーは喜び、同時に不安になった。もう、ジェームスと契約する前の生活には戻れない。戻りたくもない。

 エンバーはわずかでも怪我をしないよう、人を大勢雇い、料理を作らせた。

 外出は最小限。買い物も家事も全て、使用人にやらせた。


 ある日、指に小さなささくれを見つけた。

「ひどくなる前に取ってしまおう」

 と、引っ張る。

 すると、ささくれはテープのようにビーッと伸びた。手の甲、腕、ひじ、上腕、首へと伝線し、血が吹き出す。

 エンバーは悲鳴を上げ、倒れた。エンバーの体を巡っていた運は、血と共に流れ出ていく。

 エンバーは誰にも発見されないまま、息絶えた。

 レストランは倒産。夫は早々に再婚し、子供もエンバーのことなど忘れてしまった。


 ジェームスは新たな客のもとへ足を運んだ。エンバーの遺体から回収した運と血を、今度はその客に分け与えるつもりだ。

 客のささくれだらけの手を見て、ジェームスはニヤリと笑った。

「最近、運が悪いと感じませんか?」


(了)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

致命的なささくれ 緋色 刹那 @kodiacbear

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画