曇空 鈍縒

第1話

 スマホの画面が黒く染まり、赤い瞳が表示された。


 鉛筆で書き殴ったような不気味な赤い瞳は、微動だにせず虚空を睨み続ける。


 突然、瞳が2つに分かれた。


 瞳は、3つ、5つ、7つ、11と、さらに増えていく。


 増えていく瞳に恐怖を感じた貴方は、ディスプレイを叩いて画面を閉じようと試みた。


 ディスプレイの反応は徐々に悪化して、赤い目は狂ったように増えていく。


 貴方はスマートフォンをベッドに投げた。


「ひっ」


 貴方は、目元まである淡青色の長い髪に赤茶のメガネをかけて、典型的な凡人の様相を示す女の子だ。


 ピンク単色のパジャマが似合っていない。


 貴方は表情に恐怖をはりつけたまま、ベッドの上に落ちたスマホに手を伸ばす。


 画面を見ると、溢れていた瞳は消えていたが、画面は完全に真っ暗になっていた。


 直後、完全に壊れた可能性が頭をよぎった貴方は、慌ててスマホの電源ボタンを押した。


 仄かに熱を持つ古びたスマホの画面に、のんびりと白い林檎のマークが表示される。


 数分待って、ようやく流行りのキャラクターの待ち受け画面が表示された。


 ざっと目を通したところ、SNSもアプリもデータも無事のようだ。


「助かった」


 貴方は安心して思わずそう呟く。


 何が起こったのかは分からない。


 だけど復旧したんだし、まあいいか。


 貴方は急に暴走したスマホに気を止めることもなく、能天気にベッドに身を投げ出す。


 でも、流石の貴方もそのままSNSを続ける気にはなれず、そのまま部屋の電気を消して目を閉じる。


 貴方が眠りに落ちるのに、そこまで時間はかからなかった。

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曇空 鈍縒 @sora2021

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