ささくれ【KAC20244】オトのささくれ

オカン🐷

オトのささくれ

「えっ、ルナちゃんいないの?」

「いないの。アメリカ行って結婚しちゃった」

「ヨッシーと?」

「それが違うの」


 家の門の前で声をかけられたオトは、同じ年くらいの男性を門の中に誘った。

 どうやらルナを訪ねて来て、ヨッシーとも知り合いのようだ。

 

  コンクリートの階段に腰をかけ話を続けた。


「周りのみんなは二人が一緒になるものと思ってたのに、お互いに全然知らない人と結婚したの」

「そうなんだ」

「ヨッシーは二人の子どものお父さん。ルナちゃんも二人の子のお母さん」

「ええー、二人とも僕の世界から遠い所に行っちゃったなあ」


 同じように設えてある向かいのコンクリートの階段を指さしてオトは呟いた。


「あそこでね、いつもルナちゃんとヨッシーがおしゃべりしてたの」

「へえ、そうなんだ」

「おしゃべり広場って、私はまだ小学生だから入れてもらえなかったの」

「入りたかったんだね。でも、あの二人の中には踏み込めないものがあったよね」


 うんと頷きながら思い出していた。

 バレエのレッスンで特別コースへの編入が決まったとき、バレエのレッスン場付きの家に引っ越す話があった。しかも、オトには何の相談もなく。母のレイは猪突猛進型で人の意見を聞かずに行動に起こすことがしばしある。

 オトは自分は蚊帳の外で、周りだけが異様に盛り上がってことを勧められると、ありがたいと思いながらも疲弊し、ささくれた気持ちをどうしていいかわからないことがあった。

 そんなとき、ルナとヨッシーを見ているだけで穏やかな気持ちになれた。


「長いこと話込んでしまって、ありがとう。ラインしてもいい?」

「うん。アズくんだっけ?」

「それは幼名なんだ」


 


 

 キャー、はははっ


「おい、オト止めてくれよ。ママがパパのささくれをむしろうとするんだ」

「パパ、ごめん。ママは誰にも止められない」

「ほら、オトもそう言っていることだし観念しなさい」


 底抜けの明るさがオトの心を暗くさせることがあるのを母は知らない。




             【了】




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