青い傷

かざみ まゆみ

第1話

 ささくれが私の心をチクチクと傷つける。

 毎年、夏休みが近づくにつれて蘇る記憶。


 あの年、両親が離婚し私は夏休みの間だけ父の実家に預けられた。

 駅までバスでゆうに30分はかかる田舎。

 周囲には畑と田んぼしか無い辺鄙な所だった。


 当時小学5年生だった私は、嫌嫌ながら祖父に連れられて行ったラジオ体操でその少年と出会った。


 名前はマモルくん。名字は覚えていない。

 マモルくんは田舎の少年とは思えないほど色白で細身だった。


 ――都会のもやしっ子でも、あそこまで色白なのはなかなかいないよ。

 それが彼の第一印象だった。


 他の男の子たちが真っ黒に日焼けしているのとは対照的で、悪い意味で目立っていた。

 祖父がいうには、マモルくんは病弱で体も強くないらしい。


 マモルくんと再会したのは、近所の公民館に併設された図書館だった。

 図書館は名ばかりで、実際は児童書と新聞が置いてある程度の小さな部屋だった。


 私は読書感想文を書くための本を探しに来たわけだったが、マモルくんは机に向かい、外国の児童向け冒険小説を楽しそうに読んでいた。


「小説好きなの?」


 ビックリしたように振り返るマモル君。

 私はゴメンネと謝ってから改めて自己紹介をした。

 二人の小説談義は思いのほか盛り上がった。

 少し声が大きいかな?とも思ったが、地元の図書館とは違い、お喋りしていても注意するような人はいない。そもそも私たち以外は司書さんしかいないのだが。


 図書館から出た二人を夕立ちの飛雨ひうが待っていた。

 傘を持っていない私に付き合って、マモル君は自転車を押しながら一緒に歩いてくれた。

 ずぶ濡れ姿で、明日も図書館で会おうと約束して別れた。


 翌日、いくら待ってもマモル君は現れなかった。


 その後、祖父からマモル君が亡くなったと聞かされた。

 二人で雨に濡れながら帰った夜に高熱を出し、そのまま入院していたが容態が急変したそうだ。

 結局、あの日の約束は果たせていない。


 ささくれ。

 もう戻れない青春のささくれ思い出

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