第6話 アイテムボックス

 あきらは叫んだ。


「お前ら今すぐ逃げろ! そのイノシシは土魔法を使うぞ!」


 土田つちだが馬鹿にしたようにわめく。


「馬鹿か! 人間さま以外は魔法なんか使わねえんだよ! よし、お前らデカくて当てやすい的がきたぞ! ビビってねえで魔法を撃ちまくれ!」


 そう言うと土田は早速土魔法を大イノシシに向かって放った。


「喰らえ! ストーンキャノン!」

 

 ラグビーボール程の石の塊が弾丸のように大イノシシに向かって飛ぶ!


 しかし、大イノシシもサッカーボール程の石の塊を魔法で飛ばして迎撃し、土田の魔法を撃ち落としてきた。


「馬鹿な!本当に魔法を使ってきやがった! おい!お前ら早く打て集中攻撃だ!」


 取り巻き達も一斉に魔法を放つ。


「ウォーターボール!」

「ウインドアロー!」

「ファイアーボール!」

「アイスジャベリン!」

「もう一発くらえ! ストーンキャノン」


 魔法の飽和攻撃を感知した大イノシシが大迫力で「ブフォォォ」と吠えると土石流のような勢いで凄まじい土砂が襲いかかってきた。土田達の魔法をあっけなく飲み込み、更に迫ってくる。


「だめえぇぇ!」


 真凛が横から必死に大量の水を撃ち出すと、かろうじて土石流は土田達からそれた。


 愕然がくぜんとする土田達。


「何なんだ、この化け物は!」


 真凛が叫ぶ。

 

「早く逃げて! 人数が多いと守りきれない! このイノシシは私よりずっと強い! 少しの間ここでくい止めるから土田君達は先に逃げて!」


「後は任せた!」


 大イノシシに心をへし折られた土田達はへっぴり腰で転がるように山を駆け下りて行く。


 だが一人赤髪の男だけが逃げずに残っている。

 たまらず明が叫ぶ。


「おい、赤い髪! なにやってんだ! 早く逃げろよ!」


「足が挟まって、すぐに動けない! 頼む!助けてくれ!」


「土田達はなにやってんだよ! 一緒に連れて行けよ!」


 話している間に真凛の水魔法と大イノシシの土魔法が再び激突した。

 凄まじい轟音。大質量同士のせめぎ合いが続く。


「今の内に早く助けてあげて!」

 

「よし、文代ふみよ一緒に来てくれ!」

「わかったわ。新発田しばた君はウリ坊も連れて来て!」


 赤い髪の男のそばまで駆け寄った二人は足が挟まった土砂をどかそうとするが、なかなか足が取れない。


「新発田君どいて! 私が魔法でやる! 『水陣すいじん』起動!」


 文世が腰に下げていた水筒を握りしめパスコードを唱えると筒先から大量の水が出てきた。

突然の事に明が驚いている。

 

「何だそれ! カッケー!」


「水魔法を付与した魔道具よ。 いいから離れなさい!」


 水が足と土砂の隙間に入りこんでいき、中からふくらんでくる。ようやく赤い髪の男の足が開放され自由になる。


「助かったよ! ありがとう!君たちは命の恩人だ!」


「あなた火村ひむらくんよね? さあ、一緒に逃げるわよ!」


 赤い髪の男 ー火村ー は感謝を述べると素直に文代に従った。


「くっ!」


 切羽詰まった声に振り返ってみると真凛が押され始めている。


「真凛! もういつでも逃げられるから受け止めずに土魔法を逸らすんだ!」


「わかった! やゃあぁぁ!」


 真凛が受け止めつつも斜め横からの新たな水を出現させ、土石流を自分達からそらせた。


 魔法を何度も防がれた大イノシシが明らかにイラついている。闘牛の牛のように前脚をザシュッザシュッっとかいている。


「フシュルルルル!」


 見るからに猪突猛進の構えだ!


「土魔法と同時に突っ込んでくる気みたいだぞ!」


「文代ちゃん、イノシシの方なんとかできる? 魔法は私がそらすけど、本体の突進までは止められそうにない!」


「やるしかないわね」


「えっ!? 文代があれを!? どデカい牙までついてるぞ! そんな事できるのか!?」


「新発田君と火村君は下がってて。 むしろ牙があるからやれると思うわ」


 文代は水筒を腰に戻すとスッときれいな立ち姿を取り瞑目めいもくし深く息をはく。


 大イノシシが動く。

 もの凄い迫力だ!まるで全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れの如く、土石流と共に突撃してきた。


 真凛が迎撃する。見事な水のコントロールで土石流を横にそらしていく。大イノシシの突撃もそらせるかとみえたが、牙が突き出してきた。


「文代ちゃん!」


 文代が串刺しにされるかと思えたその時、一瞬文代の身体がブレて見えたかと思うと、大イノシシの巨体が凄い勢いで宙を舞った。


「『廻天』」


 残心を取るそのたたずまいは非常に美しかった。おもわず見惚れる明と火村。


「す、凄いな! それも魔法か?」

「これは武術よ」


 大木を薙ぎ倒しながらふっとんだ大イノシシを見て、火村がつぶやく。


「やったか?」


「バカやめろ! そういう事言うなよ!」


 大イノシシの身体がビクんと震えると、のっそりと起き上がってきた。片方の牙が根元から折れており、あらい鼻息がこちらまで聞こえてくる。ダメージを受けて弱っているのか?怒り心頭で鼻息が荒いのか?


「まずいわね、今の『廻天』で決めきれなかったら、今の私じゃちょっと荷が重いわ」


「もう一回同じ事ってできないのか?」


「これを見て」


 そう言ってつきだされた文代の両腕には、螺旋状の赤黒いミミズ腫れが出来ている。


「うわっ! 大丈夫かよ腕!」

 

「まだ未熟だから腕にダメージを受けてしまったのよ。折れてはいないと思うけれど、手に力が入らないわ」


「俺と火村でなんとかするしかないのか」


 大イノシシは怒りでなのか、真っ赤な目をしている。まるでゲームのモンスターのようだ。


「ん?そうだ! 次は俺に任せてくれ! おい、火村俺が合図したらすぐに俺の腹をめがけてファイアーボールを撃ってくれ!」


「え!? そんな事したらお前が燃えてしまうぞ!」


「大丈夫だ! いいから絶対にやってくれよ! 文代は俺の後ろに! 真凛はまだいけるか!?」


「まだ大丈夫! 魔法は任せて!」


 大イノシシがまたも突進の構えをしている。先程より更にザシュッザシュッっと土をける脚に力がこもっているようだ。


 「ブオオオオオォ」雄叫びをあげながら、再び土石流と共に大イノシシが突撃してきた。


 真凛の水の動きがますます冴えわたる。相変わらず土魔法と水魔法は一進一退の攻防をしつつ、土砂は横へとそれていく。しかし、それでも大イノシシの残された牙が突き抜けてきた。


 突き抜けてきた大イノシシが明に激突するかと思われたその時、明が唱えた。


「アイテムボックス!」


 ブォンという低い音と共に亜空間の扉が大きく開く!


 大イノシシはそのまま中へとあっけなく呑み込まれて行った。


「今だ! 火村この穴をめがけて撃て!」

「ファイアーボール!」


 火の玉が亜空間へと呑み込まれたその直後に明は亜空間を閉じる!


 心なしか空間が振動したような気がする。


「ふぅ~。 なんとかなったな。 今頃中ではきっと大爆発だぞ」


「あっ! あの悪臭の可燃性ガス!」


「そうだ。火魔法に引火して大爆発のはずだよ。 これでますますこのアイテムボックスは開けられなくなったな。 万が一生き残っていたら怖すぎる」


「そうね、もう一度研究して別の座標で亜空間を創れるようにしないといけないわね。・・・ところでこのウリ坊はどうしたら良いと思う?」


「つぶらな瞳がすっごく可愛いんだけど、やっぱり自然に返したほうが良いよね?」


 それを聞いた明が真凛に懸念を伝える。


「親がいない子供だけの状態だと、野生ではすぐに死ぬらしいぞ。 なあ、お前。はからずも俺達がお前の親を倒してしまったわけなんだけど、お前はどうしたい? このままお前のねぐらに帰るか?それとも俺達と来て誰かに飼われるか?」


 ウリ坊はしばらく周りをうろつきキョロキョロと辺りを探っていたが、少し経つと真凛のもとへトコトコと歩いてきた。


「えーっと、私と一緒に来るって事かな?」


 そう真凛がたずねると、ウリ坊は「プギィ」と小さく鳴き頭を擦り付けてきた。


「か・・・かわいい」


「じゃあ一緒に行くか。いいんだな?」


 すると今度は返事をするように「プギィ」と大きく鳴いた。


「よし、それじゃあ帰る前に大イノシシの牙だけでもも探してもって帰るか。 魔法を使う動物なんて恐らく初めての事例だから、海人かいとおじさんに報告しないといけないだろうからな」


「そうね。 もしこれから私達のように次々に魔法を使う生き物が現れたら世界は更に激変するわよ」


 ◇◇◇


 その後無事に裏山から下山し、BOX庁長官である水上 海人みずかみ かいとに全てを報告した。


 翌日にはBOX庁より全世界へ、Xウイルスに感染し魔法使いになる生き物は人間だけとは限らない、という注意喚起がなされた。


 そして今日も第1研究室では楽しい魔法開発が行われている。


「ぎゃあぁぁぁあ〜! また俺のパソコンがぁ!」


 俺達の戦いおわらいはこれからだ!

  

 ――――おわり――――


 

 ――――――――――――――――――――――――――――


  〜あとがき〜


 最後までお読みくださり誠にありがとうございます。


 この作品はKAC20243のお題、【箱】を受けての短編となります。私にとっての初めての現代ファンタジー小説でもあります。


 色々と拙いところもありましたでしょうが、作者は楽しんで物語を書き上げることができました。拙作はいかがでしたでしょうか?


 もし少しでも面白かったと思っていただけましたら、フォローや★評価をお願いいたします。星は一つ星でも構いません。作者は大喜び致します♪

 

 作者フォローをしていただけますと、今後ブラッシュアップして本格的な長編としてリニューアルした場合や、別のファンタジー作品を投稿した場合に通知が参りますので、便利だと思います。何より・・・作者が喜びます♪


 また別作品ですが『父として・・・娘を護る』という作品にて、この物語の前日譚を書いております。

 よろしければそちらも是非お読みいただきたく存じます。


 最後までお付き合いいただきまして、ありがとうございました。


  

 


 

 


 

 


 




  


 

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【KAC20243】『魔法開発』魔法でパラダイス! 🔨大木 げん @okigen

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