第5話 裏山

「・・・と言う事があったんだよ」


 周囲ではそこかしこから阿鼻叫喚あびきょうかんの悲鳴があがっている。


「くっせぇ〜!!」

「なんじゃこらぁ」


 国立箱根魔法はこねまほう学園


 通称箱根魔法学園はまがく


 その高等部校舎から少し離れた、第1研究棟の1室が吐き気をもよおす匂いの元だ。


 1年生筆頭の水上 真凛みずかみ まりんは、幼馴染でもある、同じく1年生の新発田しばた あきらに、ハンカチで口元を覆いながら詰め寄っている。

 

「ちょっと! あきら君! それだとアイテムボックス魔法の開発の説明はできてても、肝心のこの悪臭の説明はできてないじゃない! 本当は何をしでかしたのよ!」


「・・・、いれた・・の・・ていが••ないんだよ」


「え?なんて言ったの?」


「だから!入れた物の特定ができないんだよ!」


「え?」


「便利な検索機能なんかついてないんだよ!」


「え?」


「市民体育館サイズの空間から手探りで入れた物を見付けないといけないの!」


「えぇ〜!!」


「最初の実験の時は、たまたま入れた物をちゃんと取り出せたから、任意で狙ったモノを取り出す事が出来ると思い込んでたんだけど、そこまで便利じゃなかったんだよ」


「慌ててる時のドラ○もんよりひどい•••」


「空気の流入を確かめる為に、匂いの強いモノを入れてみた事があったんだけど•••悪ノリして色んなモノを次々に入れたんだけど、アイテムボックス内のどこにあるのかわからなくてもう取り出せないんだよな。何ていうか、中はおそらく巨大なゴミ屋敷化している」


「匂いの原因はそれなのね」


「確認してみたところ、時間経過無しとか、状態保存とか便利な機能が付いてるわけじゃなくてだな•••中で腐って可燃性のガスも発生してるっぽい」


「最悪じゃない」


「最悪だな。みんなしてゲームとか、ラノベのつもりでアイテムボックスを認識していたからな。 要改良だ」


「完全に空間として閉じて無いから匂いがするの?」


「いや、空間は閉じてるよ。 出し入れすると空気と一緒に悪臭が漏れるんだ。 ちょっと見てろよ。 アイテムボックス!」


 ブゥンと低い音と共に亜空間の入口が現れる。


 あきらが自分の鼻をつまんで、拾った木の棒を突っ込んで掻き回すと•••


「おえぇぇえ!」


真凛まりんがあまりの悪臭にたまらず逃げ出した。


「ちょっと! やめてよ!」


 遠くから叫んでいる真凛の姿が面白くて、明が更にアイテムボックスの入口をかき混ぜると、あたり一面が更に猛烈に臭くなる。


 やっている本人の鼻は既に麻痺してあまり匂いを感じないのだ。


「やめなさい!」


 第1研究室の中から加藤 文代かとう ふみよが現れ、明の木の棒をはたき落とすと、ようやく新たな悪臭は止まった。


「なにすんだよ!」


「なにすんだ、はこっちのセリフでしょう! 臭いんだからやめなさいよ」


 ぎゃあぎゃあと言い合う二人。


 そこへ真凛が鼻を押さえながら戻ってきた。

 二人を見ながらジト目で明に言う。


「ふーん、たった3ヶ月なのに随分と文代ちゃんと仲が良くなったんだね」


「そうか? 3ヶ月も経てばこんなもんだろ。 なあ文代?」

 

「なあじゃないでしょ、馴れ馴れしい。 新発田しばた君はもうちょっと考えた方が良いわよ」


「何をだ?」


「何かがわからないところをよ」


 なんのことだかわかっていない明の事は放っておいて、文代は真凛に言う。


「水上さん、明日は裏山で鑑定能力付きメガネ型魔道具(通称スカウタ○)とアイテムボックス魔法の検証をやるのだけど、あなたも来る?」


「明日? 明日ならあいてるから私も行く! 一緒に連れていって! 文代ちゃんありがとう!」



  翌日


 あきら真凛まりん文代ふみよの3人は予定通り裏山で検証実験を繰り返している。今日はみんなでメガネっ子の日である。


「それにしても、このスカ○ターって凄いね! 視界に入ったら、鳥とかも名前が瞬時に出てくるから、バードウォッチングしているみたい♪ 楽しいね!」


「そうだな、文代の付与魔法は凄いよなぁ」


「何を言ってるの、そもそも新発田しばた君の鑑定魔法が無かったら成り立たないんだから、新発田君が凄いのよ」


「ふふっ、二人共凄いんだよ。 すごい人と友達でいれて私は嬉しいよ♪」


「なに言ってるんだよ、真凛。 一番凄いのはお前だよ。 なんなんだよ戦闘力301って! 強すぎだろ。」


「むふふ〜。 私は能力を練り上げる事に余念がないからね! 努力の結晶なのだ〜♪」


「客観的に見て、あなた1人突出しているから努力だけではないと思うけれど」


「さすがは『ファーストチルドレン』だな。 あ、この呼ばれ方嫌いなんだっけ?」


「もう慣れたから平気だよ〜! あれっ!? ねぇあっちの方角に戦闘力が表示されてるよ?」


「ん?本当だな。 誰もいないかと思ってけど俺達みたいに研究に来ている奴らがいるのかな」


「新発田君、けっこう強い人達の反応だから研究職ではないと思うわよ」


「なんか派手な音が聞こえてきたから、行ってみて山を荒らしてるなら注意しないと!」


「真凛は真面目だなぁ。 じゃあ行きますか」


 問題の起こっている方角へ急ぐ3人は、現場へ到着すると信じられないものを見た。


 土田達のグループが5人でイノシシの赤ちゃんを的にして、わざと当てないように魔法を放っていたのだ。


「やめなさい!」 


 そう言うと真凛はあっという間に水の障壁をウリ坊の前に出現させ、そのそばに駆けつけた。


 邪魔をされた土田がほえる。

 

「なんだお前ら! 俺達は魔法の訓練をしてるんだから邪魔してんじゃねえよ」


「何が訓練よ! ただのイジメじゃない! 今すぐやめなさい!」


「1年生筆頭様はわかってねえなぁ、動く的だから訓練になるんだぜ」


「わかってねえのはお前らだろ! ウリ坊なんか的にしたら親イノシシが駆けつけてくるぞ!」


「馬鹿が! わかってて・・・・・やってんだよ。 的はデカい方が楽しいだろう?」


「なんてことを•••」


 

 ドドドドドド怒ドドドドッッッ


「ほら、ちょうど呼び寄せられて近づいてきたみたいだぜ! うおっ! なんだあのデカさは!」


 呼び寄せられた親イノシシは通常サイズよりもはるかに大きく、まるで牛のようであった。


 しかし、ス○ウターを装着していた3人が驚愕きょうがくしたのは大きさではなかった。


「せ、戦闘力555!」

「つ、土属性!」

「人間以外の生き物が超能力を持っているなんて•••」


  ――――つづく――――



  

 


  

 

 


 


 

 


 

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