エルフとぼくの物語

五木史人

エルフのイリス

エルフにとって、12年と言うのはどのくらいの時間の流れなのだろう。

人間であるぼくにとっての12年とは、意味合いが違ってくるかも知れない。


人間がファンタジーな生き物と共存するようになって、まだ12年。


ぼくは今年から、深い森の道を通って異種間中学校に通っている。


「なる、おはよう」


振り向くと、エルフのイリスが背後にいた。

エルフのイリス。リスみたいな女の子だ。

ぼくの隣の家に住んでいる。

隣と言っても、果樹園を隔てて隣だから、かなり離れている。


人間の12歳に比べれば、12歳のエルフは幼く見える。

同級生と言うより、妹が出来た感じだ。


「なる、あのささくれ」

ちょっと高い場所にある笹の実を、イリスに渡した。

イリスなら、魔法は使えば楽に獲れるとは思えるのだが。


笹は仙人の食べ物だと古い文書には書かれていた。

もしかしたらその仙人と言うのは、エルフの一族だったのかも知れない。


イリスは笹の実を美味しそうに食べた。

ぼくも食べた事はあるが、美味しくはない。


さて目の前には通学路最大の難所、赤煉瓦のトンネルがあった。

別にまだ朝だしそんなに危なくはない。


それでもぼくは警戒して歩いた。

赤煉瓦のトンネルの天井から水が滴り落ちていた。


「ぴちゃん」

大きめの音が響いた後、スライムが現れた。

最弱キャラとは言え、ぼくらのとっては強敵だ。


「おおお、人間のガキとエルフのガキか」

最弱キャラの癖に、かなり悪そうだ。

とりあえず、ぼくは剣を構えた。


でも

「ここはあたしに任せて」

イリスは魔法使いだ。


「ほお、お嬢ちゃんが相手知れくれるのかい?」

まだスライムは悪そうだ。最弱のくせに。


イリスは魔法の杖を握り、魔法を唱えた。

「ハズーイ」

「?」

数秒の沈黙の後、スライムたちは突然恥ずかしがり始めた。


「なんで俺ら全裸?」

「めっちゃ恥ずかしいんだけど」

「こんな状態で戦える訳がない!」

「とりあえず服着てから出直そう」

等々。


スライムたちは、深い森の中へと逃走した。


イリスは説明した。

「魔法【ハズーイ】とは、羞恥心をマックスにしてしまう、恐ろしい魔法なのだ」


12歳のイリスが、習得して良い魔法なのだろうか?


イリスは、ぼくと目を合わせると

「はっ!しまった」

「どうした?」

「なる、あたし、パンツ履くの忘れてる」

「ええええええええ」

「一緒に戻ろう、誰かに見られない様にあたしを守って」

「う、うん」


ぼくらは急いでイリスの家に戻った。


元々エルフには、パンツを履く概念がない。

人間社会と融合していく過程で、パンツを履き始めたのだ。


こうやって異種同士は、少しずつ融合していくのだろう。



 

          完





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