あなたのラッキーになりたい

ラジパラ

あなたのラッキーになりたい

職場に気になる女性がいる。


いや、口説こうとか、ましてや付き合おうとかそういうことではなく。長らくブサイク村で育った弊害で、そんな大それたことはおこがましいことは百も承知だし。ただ、毎日会話ができる関係性はキープしていきたいし、その中で少しは自分のことを良く思ってほしい、などと考えている存在だった。

ただ、これもブサイク村育ちの弊害で、じゃあどうすればいいのか、というノウハウがない。正確には脳内ノウハウは山ほど積み重ねてきたが、実効性が認められたノウハウが皆無である。


そんな中、1日数回交わす会話から、ある情報が得られた。彼女は、毎朝特定の情報・ニュース番組を見てから通勤しているらしい。それを知ったとき、数々の実効性のないノウハウから、一つの光が差した。

朝のニュース番組では、時報の前に星占いコーナーがある。女性は占いとか好きだ。今日のラッキーアイテムとか、運気がよくなるキーワードとか、そんなものに一喜一憂しているに違いない。朝、テレビで見たラッキーアイテムに、生活の中で出会えば嬉しいに決まってる。その嬉しいラッキーアイテムを、自分がやりに行けば良いのではないか?幸い、人事資料を目にした事あったので、彼女がみずがめ座であることは知ってる。明日から、朝は番組をチェックして、俺はみずがめ座のラッキーアイテムになる。


ということで始まったラッキーアイテム生活。これが、出てくるアイテムによってかなり難易度が変わってきた。簡単なのは服装や持ち物。“青いシャツ”と言われれば、それっぽい色のワイシャツを着ていけば良いし、“タオル地のハンカチ”と言われれば、タオルハンカチを持っていき、さりげなく汗を拭くところを見せたりすればよい。

食べ物も対応しやすいものが多かった。“ドーナツ”と言われれば「仕事の出先の隣にドーナツ屋ができていた」などと言って買ってきて、皆にふるまってみる。これ、ラッキーアイテム関係なくポイント上がりそうなものだが、みずがめ座の彼女にとっては、ラッキーアイテムということでさらに一翻乗ってきてたに違いない。


逆に、人物そのものを指す内容だった場合はどうしようもないこともある。“帰国子女”とか言われても、いまさら海外に行くことも過去に戻ることもできないし、そもそも日本語以外しゃべれないし、という状況はなかなか取り繕いようがなかった。

そのほか、“地引網”がラッキーアイテムという日もあった。そこまで突き抜けたアイテム出されちゃうと、朝の短い時間でこなすことも難しく、なんか適当に子供の頃の地引網エピソードとか話したりとかして寄せにいったものの、これをラッキーアイテムと捉えてもらえてたかは甚だ疑問だ。てか、この日ラッキーだったみずがめ座の人は日本に何人いたのだろうか?というくらいの謎アイテムだ。


そんなこんなで、結局ラッキーアイテムになりきれたのは、無理やりなものも含め週5日のうち2~3日だろうか。ラッキーアイテムとしてこちらを振り向いてもらえたような手ごたえがないまま時が過ぎ。そんな彼女が朝の番組を見ているのは、とあるイケメンタレントがプレゼンターを務めるコーナーを見るためであって、占いの時間にはすでに家を出ているということを知ったのは、3カ月以上が過ぎたころだった。

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