段ボール箱に白い粉やタイマー機能の付いた機械、かえんびんなどを詰めて警察に送ったら大騒ぎになった

みすたぁ・ゆー

段ボール箱に白い粉やタイマー機能の付いた機械、かえんびんなどを詰めて警察に送ったら大騒ぎになった

 

 困ったことになった。


 私にはすぐにでもやらなければならない重要な任務があるのに、まだ何も行動していない。それもそのはず、数分前に友人の山手やまて安芸あきからスマホで連絡を受けるまで、そのことを完全に忘れていたのだから。




 実は数日前、私は『職業体験』と呼ばれる強制イベントに参加させられた。


 本音としてはそんな面倒臭いことなどしたくなかったのだが、授業の一環ということで拒否できなかったのだ。


 決して『遅刻や早退、無断欠席が多すぎて、このままだと進級がヤバイぞ』と担任に脅されたわけではない。そんなことあるわけない。断じてない。



 そもそも平凡な一生徒である私に拒否権なんてないのだ。もし生徒会役員であれば学校の権力者たちとのパイプを利用して、常任理事国のごとく拒否権を発動できただろうけど……。


 あるいは世界に名の轟く大富豪なら、学校どころか政治的な権力者に数千万円単位の個人献金でもして、便宜を図ってもらうという方法もあったかもしれない。


 ただ、残念ながら我が家に資産など存在しない。裏金もタンス預金も制裁対象国との武器密売で得た暗号資産もあろうはずがない。事実、父は一般企業の窓際サラリーマンであり、日々の生活で精一杯の財政状況。未来にも多くは望めない状態となっている。


 まぁ、出世競争や派閥内闘争に巻き込まれて精神や生命、頭髪、奥歯などを磨り減らすより、目立たず高望みをせず細く長くというのもひとつの生き方かもしれないが。


 …………。


 ……あ、父の頭髪は何もしなくても年齢を重ねるごとに磨り減っているんだった。


 それと以前にちょっとした出来事があって、私がバリカンでツルツルに剃ってしまったこともあるし。



 ちなみに母は父に対する積年の不満によってついに愛想が尽きたということで、現在は別居をしている。仕事は内閣府のキャリア官僚。父と顔を合わせなくなって以来、気力がみなぎってバリバリと活躍しているから、当面は帰って来ないだろう。


 当然、将来的には私もひとりで強く生きていけるよう、庭で石油でも掘り当てようと考えている。穴を掘る機械を購入する資金はなくても、スコップや根気、自分自身の労働力さえあればなんとかなる。必要なら地球の裏側まで掘り進めてみせる。




 ――と、そういうことで私は仕方なく職業体験に参加したというわけだ。


 私の通う高校は校則も雰囲気も頭の中までも緩くて過ごしやすい環境だけど、たまにそういう意味不明なイベントを行うところだけは嫌いだ。


 そして私が参加した職業体験先というのが、高校の近所にある交番だった。


 もちろん、交番勤務をするといっても私の身分はあくまでも民間人だから、現行犯などの例外を除けば逮捕権なんてない。拳銃や警棒の携帯だってさせてもらえるわけじゃない。


 そのため、任された仕事は交番内外の掃除やパトロールの付き添い、被疑者の似顔絵制作体験といった当たり障りのないものばかり。せめて臨時的で構わないから、様々な権利を認めてほしかった……。


 そうすればあおり運転の犯人に発砲したり麻薬の売人に発砲したり、限定グッズを買い占める転売ヤーに発砲したり、難癖でもいいから何か理由を付けてその辺の誰かに発砲したり出来たのに……。


 なお、一部の間では交番勤務のことを『ハコヅメ』というらしい。


 箱(交番)に詰める仕事だからハコヅメ。警察官が手の空いた時間に内職として、何かの商品を箱に詰めて出荷しているわけじゃない――たぶん。


 いずれにしても自他共に認める『箱入り娘』の私にはピッタリの体験先だと思う。


 その後、無事に職業体験を終えた私は、交番で世話をしてくれた警察官の皆さんに対して個人的に何か御礼の品物を贈ることを決めた。


 日本ではお世話になった警察官さんなどに対して『御礼参おれいまいり』をすると聞くから、私もその伝統に則っておこうというわけだ。特にヤの付く商売をしている人たちはその頻度が高いらしい。


 でも職業体験をした翌日、休み時間中に教室でそのことを安芸に話したら頭を抱えながら呆れられた。




「あのねぇ……。端里はたり、それは意味が違うって。どうせ天然なアンタのことだから、ボケじゃなくて本気で言ってるんだろうけど……」


「なっ!? ほ、本気も何もそれ以外の意味なんてあるのかッ? だとしたらそれを教えろ安芸っ、はよっ!」


「そういう商売をしている人たちが言う『御礼参おれいまいり』は『仕返ししに行く』って意味だよ。よくも逮捕してくれやがりましたね、ありがとうってこと。揶揄やゆした言い方ってことね」


「そ……そうだったのか……。初めて知ったぞ……」


「端里の誤解は別として、お世話になった警察官さんたちに御礼をしたいっていうその気持ちは素晴らしいと思う。端里ってちょっと世間ズレしたところはあるけど、根は純粋で優しい心の持ち主なんだよね。私、端里のそういうところ好きぃ♪」


 そう言うと安芸は私に抱きつき、頬を私の頭にスリスリしてきた。


 暑いしウザいし、私の肌に感じる無駄に柔らかな脂肪の感触が特に腹立つ。中学生時代から身長も体型もほとんど変わらなくなってしまった私に対する当てつけか、コノヤロウ……っ!


 そのコンプレックスのせいで『ちっこくて可愛い』という言葉が皮肉にしか感じなくなるほど性格が歪んでしまったんだぞ。


「や、やめぃ……。女子同士でもセクハラは成立するんだぞ。私には百合な趣味だってない。絶交してもいいのか?」


「……そんなぁ。警察官さんに贈る御礼品のアドバイスをしてあげるから、そんなこと言わないでぇ……。うるうる……」


 悲しげな顔で震える声を漏らす安芸。


 だが、瞳に涙は浮かんでいないし、口で『うるうる』なんて言うヤツが本気で泣きそうなくらいに悲しんでいるはずもない。


「安芸よ、そういうわざとらしい態度もムカツクぞ」


「よーっし、それなら大サービスだ! ちゃんと警察官さんに御礼を贈ったかどうか、あとで確認の連絡もしてあげる。端里のことだから、時間が経つとこのことを忘れかねないし」


「私の記憶力はニワトリかダチョウ並みだと? 失礼なヤツめ」


「いや、そこまでは言ってないけど……」


「だが、アドバイスと確認連絡は魅力的な提案だ。今後も親友でいることを許す。ベタベタするのも多少なら容認しよう」


「ありがとーっ! さっすが端里っ! 大好きーっ! また抱きついちゃう!」


「安芸、やっぱウゼェ……」




 ――まぁ、そういう経緯があって、さっき安芸から確認の電話が入ったわけだ。


 バカなクセに相変わらず律儀なヤツだとは思う。もちろん、アイツのそういうところは嫌いじゃないが。


 …………。


 ……べ、別にだからといって好きというわけでもないがなッ! 私のパーソナルスペースへ立ち入ることを特別に許してやっているのは、安芸だけなのは確かだが!


 と、とにかくっ、その時の電話口では『すでに用意してあるに決まっているだろう私をなんだと思ってやがるコノヤロウ』と冷淡な感じで悪態を吐いて誤魔化しておいた。今は少し早まったことをしたなぁと後悔している。


 だが、本当に困った。そう口にしてしまった手前、安芸にさらなるアドバイスを求めるわけにはいかない。


 そして今夜中に発送を済ませなければ、明日、学校で何を言われるか分からない。送付した証拠として、荷物に貼り付けた帳票の控えを見せろと迫られる可能性だってある。


 いくら私のプライドが2024年3月現在の日銀金利くらいに低くても、意地というものはあるのだ。なんとかして御礼品を準備して、速やかに発送しなければ。


 ――現在時刻は午後6時。集荷依頼の受付終了時刻が迫っているから急ごう。


「とりあえず自宅にある、警察官さんの役に立ちそうなものを段ボール箱に詰めて送っておくか。デパートで購入したギフトセットなどでなくとも、気持ちの込められた物なら喜んでくれるはずだ」


 当然、今からどこかへ品物を買いに行っている暇はない。


 一方、自宅内には使わない物だけは溢れているから、私の独断と偏見でそれらをチョイスして詰め合わせればいい。廃棄物処理も出来て我が家としては一石二鳥だ。


 それに幸いにも父は通販で何かのDVDや用途不明のオモチャを頻繁に購入しているから、周りには不要な段ボール箱が豊富にある。


 また、父が取引先や上司のほか、あらゆる相手に対して何かを送る際にいつも使っている着払いの帳票も束になって固定電話の横に置いてあるので、それを箱に貼って宅配業者に集荷に来てもらえば全ての問題は解決する。


「――さて、それでは品物を選んで段ボール箱に詰めていこう」


 警察官さんたちが潔癖症である可能性も考え、段ボール箱や品物に私の指紋が付かないように、そこらに転がっていた手術用のゴム手袋を両手にはめた。そして父の部屋へ向かい、押し入れを開ける。


 するとそこには例の『用途不明のオモチャ』が大量に入れてある段ボール箱があり、私はそれをひっくり返して中身を室内にぶちまける。


 その片付けは終電間際までサービス残業してから帰宅するはずの父がやるだろう。


 ちなみに私はこの箱の存在を以前から知っていて、サイズがちょうど良さそうだと直感したからこれを選んだわけだ。


 巻き尺で測ってみると、30センチメートル×30センチメートル×40センチメートル。つまりぴったり100サイズに収まっている。これなら重ささえ気を付けていれば、運賃が上がることなく同サイズで最大限に品物を送ることが出来る。


「まずは食べ物を入れておくか。激務で栄養バランスが崩れていそうだし、野菜が豊富に摂取できる皿うどんセットにしよう」


 そう思い至った私は、庭に出てそこら辺の草を引っこ抜いた。さらに敷地の隅に生えている種類不明の木から葉や実などを採取し、それらを水道の水で綺麗に洗う。


 もっとも、少しくらい土や虫などが付いていても新鮮そうに見えるし、ずっと流水に晒されていると手が冷たくなってしまうので大雑把にやっておくだけにする。



 ……まぁ、そもそもその草や葉など食べられるかどうかは知らないけど。



 いずれにしても、それらを食べるか食べないかは警察官さんたちが自己責任で判断するだろうから、私としては知ったことではない。


葉物はものはこれでよし。次は肉や海産物だけど、生鮮食品は買い置きがない。そうなると別のタンパク質で代替するしかないか」


 電気代が勿体ないので、我が家の冷蔵庫はなるべく使用を避けている。そのため、肉や魚などはその日の食事で使う分しか買っていないのだ。


 ただ、ハンバーグでも肉の代わりに豆腐を使うなど、料理はアイデア次第でどうとでもなる。むしろ工夫によって、美味しくなったり栄養面で優れるようになったりするのも面白いところ。


 そこで私は父の枕にこびり付いている髪の毛をかき集め、それを箱に入れることにした。髪はタンパク質で出来ているから代替品になり得るし、麺にも違和感なく混ざって意外に良いかもしれない。


 こうしてタンパク質に関しては問題が解決した。次は麺か……。


「……あっ! 我が家には肝心の麺がなかった!」


 私としたことがそのことをすっかり忘れていた。


 メインの食材について失念していたとは一生の不覚。麺がなかったら単なる『あんかけ野菜炒め』になってしまう。


 ただ、肉と同様に麺も代替品にすればいい。周囲を見回してみると、ちょうどいい物があったのでそれを箱に入れることにする。


 その代替品とはイヤホンのコード。最近は無線のイヤホンを使うようになり、有線のイヤホンはお役御免となってそこらに69本ほど放ってある。その全てをぶち込んでおく。


 そして調味料はキッチンから持ってきた片栗粉をチャック付きのビニール保存袋に入れ、さらに甘みを出すための氷砂糖も別の袋に入れた。もちろん、氷砂糖はそのままだと料理に使いにくいので、袋に入れたままハンマーで叩いて粉々に砕く。



 白い粉と半透明の結晶体。これをキメれば警察官さんたちもたちまち元気になることだろう。疲れた時にはやはり糖分だ。



 ちなみに醤油や油など液体の調味料は配送中に漏れてしまう危険性を考え、箱に入れないでおくことにする。まぁ、それくらいは彼ら自身で用意してもらうこととしよう。


「皿うどんの材料はこれでOK。次は精神面の癒しを考え、眺めていて落ち着くインテリア品を入れよう」


 警察官さんにとって、肉体とともに精神の健康も非常に重要だ。冷静さを失っていては、任務の遂行や瞬時の判断に影響が出てしまうから。


 例えば、日本刀を振り回す凶悪犯と対峙した時、躊躇なく発砲できなければ困る。


 そうなると眺めているだけで精神を安定させられるオブジェのような物があるといいのだが。それこそ邪神像のような何かが……。


 いずれにしてもおそらく床に何かが転がっているだろうということで、私は周囲を見回した。世の中には正義も希望も腐るほど落ちているのだから、役に立ちそうなものだってあるはずだ。


 するとその予想通り、雑多に物が散乱している中に『あるもの』を発見する。


 それはかつて期間限定で販売された、エナジードリンクの瓶。某ゲームとコラボした商品で、作品内に出てくる回復アイテムの入った瓶を模した物となっている。すでに中身は消費済みだが、瓶だけでもデザイン的に素晴らしい一品だ。


 今やオークションサイトなど以外では買えない瓶であり、貴重な品なのは間違いない。


「皿うどんの材料と良いデザインの瓶。これだけ揃っていれば、何かあとひとつくらい入れておけば充分だろう。――そうだ、警察官さんたちが勤務に遅刻しないように、目覚まし時計でも入れておくか」


 私はクローゼットの奥に押し込んだままになっている目覚まし時計の存在を思い出し、それを箱の中に入れることにした。


 これは私の遅刻癖対策にと父が一年ほど前に買ってきてくれた物。アナログ式で秒針が『コチコチ』だか『カッチカチやで!』だか知らないが、とにかくベルが鳴らなくてもそれなりにうるさい。


 要するに私の安眠を邪魔する害悪以外の何物でもないので、一度使ったきり放置してある。このまま朽ちるよりも世間様の役に立った方がこの時計も本望だろう。


 もちろん、箱の中に入れる前に時計の電池を新しい物に取り替えておく。




 ――こうして贈り物は全て箱の中に入れ終わり、あとは配送の際に中身が動かないよう隙間を埋めるだけとなった。


 本当は緩衝材のようなものがあれば良いのだが、そんな便利な物は見当たらないので父の靴下やパンツ、腹巻き、カツラなどを代わりに入れおくことにする。


 もちろん、全て洗濯済みだし、変な臭いがするわけでもない。単に穴が開いていたり破れていたりで、本来の用途としては使えないというだけだ。それがこうしてリサイクルされるのだから、地球環境にも優しい。


「うむ、これで良し。あとは梱包するだけか」


 私は全ての物を箱に入れ終わると、ガムテープで封をした。ただ、箱の中に靴下などを入れすぎたのか、イヤホンの赤やら青やら黒やら緑やらのコードが何本も隙間からはみ出してしまっている。


 …………。


 ……まぁ、それくらいなら気にしなくてもいいだろう。詰め直すのがメンドい。


「最後は御礼状を添えておこう。ただ、私は字が汚いからな……」


 例えば、学校から出される課題レポートは文章制作ソフトで作るから、紙に印刷するにしてもデータで提出するにしても問題がない。


 ただ、こういう書類の場合は頭の固い人間ほどなぜか手書きにこだわる風潮がある。


 だからといって、今から通信講座でペン字を学ぼうにも間に合うはずがない。


 そこで困った私は古新聞の束を持ってきて、そこから必要な文字を切り抜き、貼り合わせて文章にすることにした。これなら手書きではないが手作り感は演出できて、単に電子データを紙に印刷するだけよりはマシになる。




『国家権力の皆様へ。正義のプレゼント。箱を開けたら衝撃受けて震えるで。白い粉、はもの、かえんびん、タイマー機能付きの機械などが入ってるからな』




 古新聞の中から該当する漢字が見付けられなかった『葉物』と『買えん瓶』は、仕方なく平仮名で表現することにした。日本語には漢字、平仮名、片仮名、アルファベット、数字、記号など使える文字がたくさんあるから、こういう時は便利だ。


 そしてその御礼状は茶封筒に入れ、箱の外側に貼り付けておいた。


 ちなみに帳票の送り先欄にはお世話になった交番の住所、宛名は『ケーサツの皆様』としておく。


 …………。


 あ、そういえばこういう場合に使う敬称があったような……。


「――っ!? そうだ、ウォンチューだ! 『御中おんちゅう』だったような気もするけど、要するに私の熱い想いが伝われば良いんだから『ウォンチュー!』にしておこう。『ケーサツの皆様 ウォンチュー!』と、これでよし」


 さらに差出人の欄には我が家の住所と父の名前。さすがに自分の名前を書くのは照れくさいし、連絡が取れれば良いわけなので父の名前でも問題ない。保護者なんだから。そして品名の欄には『ギフトセット』と書いておく。


 なお、これらの欄はボールペンなどで書かないと下部の帳票に転写されないので、汚い字になってしまうが仕方なく私が手書きする。


 こうして荷物の準備が終わり、宅配業者のサイトで集荷依頼をして、荷物を玄関の外に出しておいた。サイトの登録アカウントは父の名義。いつも後ろから画面をチラ見しているから、IDもパスワードも分かっている。


 もちろん、詳細までは見えていなかったが、大体の長さや文字列の組み合わせの雰囲気で推測は出来ている。IDはプロバイダのメールアドレスで、パスワードは父の生年月日だ。事実、無事にログインできたので、その推測は正しかったらしい。




 数十分後、外からトラックのエンジン音が聞こえてきて、それが玄関の前で収まった。さらに荷台のドアを開閉する『ドンッ!』という音が響いたかと思うと、エンジンの掛かる音がして程なく遠ざかっていく。


「無事に集荷されたようだな……」


 念のため確認しておこうと、私は外へ出てみた。


 すると玄関前に置いてあった段ボール箱はなくなっていて、さらに宅配業者のサイトにログインしてみると荷物は『集荷済み』と表示されている。これで明日か明後日には交番に配達されることだろう。


「ふふふ、警察官さんたちもきっと喜んでくれるぞ」


 私は彼らの笑顔を想像して心が満足すると、大好物の『味噌煮込みうどん』を夕食として食べたのだった。これはがんばった自分へのご褒美だ。





 翌朝、なぜか私は母から電話で呼び出され、母の所有するスイスの別荘でしばらく引きこもっているよう指示された。そしてメイドを付けて生活には支障のないようにするから、なるべく外部との接触を避けるようにも言われた。


 もちろん、その間は学校を休むことになるが、校長には権力・財力・暴力・軍事力・魔法力ほか、色々な力を使って根回しをしておくから安心しろとのこと。


 ――まぁ、私としては学校をズル休みできるなら不満はない。


 さらにその日の夜、ネットで衝撃のニュースを目の当たりにすることになる。




『本日、東京都谷場井やばい区の交番に不審物が送られてくるという事件がありました。爆発物の可能性もあったため、近隣は一時立ち入り禁止となり、爆発物処理班が出動する騒ぎとなりました』


 女性のアナウンサーが深刻な表情をして原稿を読んでいた。


 続けて現場らしき場所の映像が映り、大勢の警察官さんたちや騒然とした地域住民たちの様子が流される。


 そこは見覚えのある景色であり、人だかりの中には安芸の姿もある。


「なんだ、ここは私の通う高校の近くじゃないか。そんな事件があったとは……」


『幸いにも中身はガラクタだらけで、悪質なイタズラだとのことです。警視庁では威力業務妨害の疑いがあるとして捜査を行い、近所に住む会社員の息辺いきあたりふい容疑者、56歳が逮捕されました』


 それを聞き、さすがに私も目を丸くした。なぜならその人物の氏名も年齢も私の父と同じだったから。


 直後、パトカーに乗せられた容疑者の顔を見てそれが同姓同名の別人などではなく、紛うことなき私の父だと確信する。


「まさか父が逮捕されるとは……。なんというバカなことをしたんだ。いつか何かをやらかしそうな気はしていたが……」


『息辺容疑者は「私は何も知らない。身に覚えがない」などと供述し、容疑を否認しているとのことです』


 ――こうして父はブタ箱送りとなった。



〈おしまいっ♪〉

 

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