確定申告から始まる物語

@soccya

別の確定申告

3月10日。

私の元に1通の手紙が届いた。

確定申告の通知だ。

夫は毎年確定申告をしていた。

夫は休みなく働くが、今は別居しているため何故私の元にこの手紙が届いたかは分からない。

私は夫を愛している。

結婚して早30年。

息子は独立し、家業を継がずに出ていったため、今は夫が家業を続けている。

私も家業を手伝うことがあるけど、私の仕事は帳簿記入や家業に必要な物の買い出しといった雑用ばかりだ。

だけど私にとって帳簿記入は、夫との生活を端的に見つめられる日記を書いているみたいで好きだ。

かかりつけの税理士に手紙を見せると、顔をしかめられたが、何とかすると言ってくれた。

私は給与と公的年金の源泉徴収票、事業所得の青色申告特別控除に必要な帳簿の一式を税理士に渡した。

私は夫との生活を見返した。

夫はここ数年、私を見ると目を逸らしていた。

仕事に専念したい、別居しようと言われた時は愕然とした。

夫を愛しているから振り向かせたのに、今も夫が恋しいのに、息子も誰も理解しない。

でも夫を愛しているから、この家業も大切にする。

後日、税理士は恐る恐る、帳簿に隠れた血のような赤い文字の存在を教えてくれた。

「実は僕、人間じゃないんだ」

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