箱入り人生

そうざ

Life in a Box

 人生は箱から箱の連続だと聞かされた。確かに建物も交通機関も箱と言えば箱だし、何処へ行くにも、何処まで行っても、箱、箱、箱、箱が付き纏う。

 僕はこの話を聞いて息苦しくなった。閉所恐怖症なのかも知れない。僕みたいに夢も希望も志もない人間は、日がな一日、人里離れた場所で何をするでもなく過ごすのが性に合っているのだろう。


 またあの音楽が聴こえる。

 軽やかな音色、だけど子守唄のよう、だから瞼が重くなる。

「いつまでもここに居たら通報されるかな?」

 僕の思考に誰かが入って来た。本来ならば驚く場面だろうが、僕は自然に受け入れていた。

「見付かったら豚箱に放り込まれたりして」

 あはははと笑い合う。たちまなごんでしまった。

「そうか、あの話は君から聞いたのか」

「人生は箱から箱?」

「うん」

「僕は君から聞いた気がする」

「箱からのがれたいならいっそ野垂れ死にだな」

「どうかな、奇特な人が発見してくれちゃうかも」

「死んでもやっぱり棺桶はこからはこか」

 再びのあははは。

「この宇宙そのものが大きな箱かも知れないし」

「身体も一種の箱だよ。一生、出られない」

 どの道、絶望的という訳か。どうも話が湿っぽくなる。

「今度、一緒に旅行でもどう?」

 我ながら唐突な提案だと思う。それでも相手は見る見る童顔をほころばせた。

「僕もそんな気分だよ」

「あっ、でも乗り物も箱だ」

「足があるじゃないか、お互いまだ覚束おぼつかないけど」

 気が付けば辺りは随分とくらい。が、最初からそうだった気もする。

「何ももが箱さ。誰もが母親はこの中の子宮はこで誕生するんだから」

 いつの間にか息苦しさを忘れている。背丈も顔立ちもよく似た僕等は実に馬が合うようだ。


 また音楽が流れ始める。

 ――2番線からスーパーはこね5号が発車致します――

 扉の向こうでは、箱から箱へ移動するだけの人生が忙しくうごめいている事だろう。

「一眠りしよう」

「そうしようか」

 僕等は四角いコインロッカーはこの中でゆっくり溶けて行く。

 双子ふたりで居れば寂しくもない。

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箱入り人生 そうざ @so-za

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