箱テン [バキコとワンズ君③]

ハマハマ

箱テンとは持ち点がゼロになる事

「ツモ! ジュンチャン三色サンシキ一盃口イーペーコードラ二! か〜ら〜の〜……裏ドラ二つ乗って三倍満じゃぃ!」


「マジかー」

「ねえちゃん強すぎんぞオイ」

「…………」


 やられた。また……


「あ、ワンズくんもしかして……箱テン?」


 このクソつよ女めが……


「だまップ! 飛んでねぇわ! 跳満ハネマン直撃に親の三倍満ツモられてマイナス二万四千! まだ千点あるわぃ!」

「ぷっ――」


「笑ってんじゃねぇぞ! 目にもの見せたらぁ!」


 ………………結局、クソつよ女のひとり勝ち。


「ほら。トータル早く計算しな。べべはわたしの卓代もちなワケ。二時間で千二百円ね」


 くっそ。この女なんだってこんな強えのよ。


 二位三位四位はドングリの背比べ。

 幸いなことに俺ビリじゃなくって二位だった。だから卓代半分は三位のおっちゃんが持ってくれるんだ。


「じゃ、オジ様がた。また健全に打ちましょうね」

「お先っす」


 ……一応お金を賭けてないから賭け麻雀じゃない、ってのが言い分だ。

『「一時の娯楽に供する物を賭けた場合」は、賭博罪による処罰を受けない』なんだって。

 俺らの場合、賭けてるのはお金じゃなくて卓代だからセーフ。


「ワンズ君お腹空いたでしょ? 奢ったげるしラーメン食べてから帰ろ」

「ゴチになりまーす!」


 それぞれラーメンと、餃子一人前を半分ずつ。

 餃子一人前をひとりで全部は多いんだって。


「で? その後どうなのよ。?」


 バキコの部屋の内見の後。なんだか仲良くなって三人で飯食いに行ったりしてんだよ。不動産屋のおねえさんことユリちゃんと。


 で、いつの間にか麻雀仲間ってワケ――あ、ユリちゃんの口癖が伝染うつっちまった。


ってなんすか?  なんも変わんねえっすよ」


「え? 嘘でしょ? もしかしてまだ彼ピッピなの? 彼ピじゃないの? ××チョメチョメしてないの?」

「ちょっと何言ってるか分かんないですけど彼ピじゃないっす」


 はぁぁ――なんて深いため息つかれちまった。


「オレも割りと忙しいんすよ。課題とバイトとで」

「なに言ってるのよ。バカでボケねぇワンズくん」


 お淑やかなお姉さんなのに口が悪いんだよなぁこのひと


「忙しいなら忙しいなりの付き合い方もあるでしょう? だからとりあえずコクりなよ」

「なんでそうなんの?」


 ラーメン摘んだ箸もそのままで、目が点になっちまった。な、なななななんで俺ががががバキコココココに告るワケよよ――また伝染っちまった。


「そういうの良いから。バキコちゃん大学入って化粧覚えて綺麗になったよね? ワンズ君的にどう?」

「いや、まぁ、そう、っすね」


「ワンズ君は別の学校なんだよね?」

「っす。専門行ってるっす」


「ここで麻雀に例えてみましょう」

「なんで?」


 と思ったけどユリちゃんの説明は判りやすかった――


 麻雀なら全員が二万五千点スタート。

 しかしハンデやアドバンテージもあるのが恋なのだと。

 同じ学校じゃないのはハンデ。マイナスだ。

 高校から同じなのはアドバンテージ。プラスだ。

 バキコんちに行けるのはめちゃくちゃプラスだ。


 他の男どもと点棒を取り合うのが恋愛なんだ。

 黙ってちゃ一飜イーハンも上がれないぞ――と。


「いまワンズ君の点棒、かなり少ないかもよ? もしかしたら寸前」


 ぐ。やべぇ。


 けどなんか変な間が空いたらメールとか電話しにくくなんねぇ? 向こうから掛かってきてくれたら――

「向こうからなんて待ってちゃダメよ? そんなんボケ通り越してカスだからね?」


 そんなこと言われて凹んだ正にその時、ラーメン屋に入ってきたグループが。


 男女数人。その中にはバキコの姿。


 ちょっと久しぶりに見たけど……確かに綺麗になってるよなぁ――なんて思って見てたら目が合って、スィッとらされちまった……


 奥の座敷にそのまま入ってくグループを見送って、その一部始終を見てたユリちゃんが言ったんだ。


「ワンズ君もう、箱テンハコってるかも知れないね」



 ……マジ?

 さっきみたいに千点くらい残ってねぇ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

箱テン [バキコとワンズ君③] ハマハマ @hamahamanji

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説