KAC20243 その日。俺は何かを解放した
久遠 れんり
封じられていた。何か……
俺は廃屋とかの探査が大好きで、色々な場所を巡っていた。
だが、ある掲示板に書かれた気になる文章。
それに従い、封じられた村へと忍び込む。
山稜に書き込みの通り、樹齢の違う巨木が立っている。
この木達、一体何年経っているんだ。
きっと両手を広げても、半分も届かないだろう。
下を覗くと、昔の田んぼだったような段が見える。
完全に山に囲まれた里。
その中央に、真新しい藁葺き屋根の日本家屋。
ただ、庭は荒れ果て、草が生い茂っている。
道はないため、適当に降りていく。
上から見えた日本家屋。
ダニよけのスプレーはしているが、ものすごくやばそうだ。
一応声はかける。
「こんにちは。どなたかいらっしゃいませんか?」
草をかき分け、周りを見るが、人の踏み入れた形跡はない。
書き込みでは、ここに来て生きて帰ったものはいないという話。
今更ながら、どうしてここへ来ようと思ったのか、自分自身でも理解ができない。
廃屋でも、管理者がいれば連絡をして、写真を撮りたいとか許可取りをしていた俺だが。
この書き込みでは、入ってはいけないと書いてあったのに、来なければいけないと暴走状態。
「自分自身でビックリだよ。すみません。入りますよ」
引き戸は、古そうだったのにスパーンと開く。
「うおっ」
思わず驚く。
無茶苦茶段差のある床。
「古い家、あるあるだな」
床は掃除したての様に綺麗な状態。
靴を脱ぎ、お邪魔をする。
良くある、田の字型をした部屋。
まだ畳の匂いもする。
その畳の間から、さらに奥へふすまがある。
ふすまを開き中を覗くと、床の間だった。
もう一つ右側。
そこも畳。
だが半分は柱が立てられ、格子の壁。
「座敷牢だな」
初めて見るが、どういうものかは知っている。
家族の中で発生した乱心者。
つまり疾患などで、精神的におかしくなったものは、家の恥として幽閉をした。
昔はそういう、こだわりが大きかった。
だが、違和感は、その中にある。
格子には、びっしりと札が貼られているが、訳のわからない、文字が書かれた紙が貼られていた。
封じ札というよりは、
千社札とはお参りに来た証拠に貼られた紙。
落書きで、○○参上とか在るが、昔は札を貼っていた。
そして、違和感の正体。
黒い箱。
その蓋の所にも、紙が貼られている。
座敷牢の、閂を外し中へ入る。
「うーん封じ札なのか? 中にミイラとかあるといやだな」
一応写真を撮る。
曰く付きだと、たまに変なものが写る。
拡大をしてみるが、何もないようだ。
その時、声が聞こえた。
「もし、外にどなたかおいででしょうか? いらっしゃるなら助けてください。いきなり男達に押し込められて出られません。また奴らが来る前に出してください。お願いします」
この時、外には人が踏み入れた痕跡がなかった。
その事が、すでに頭から抜けていた。
「開ければ良いのか? 怪我は無い?」
「ありがとうございます。出たらお礼は差し上げましょう」
「いやお礼は、別に良いが……」
蓋は封じている紙など、関係ないくらい簡単に開いた。
「なんだよ。弱いし簡単に……」
箱の中には箱があった。
「もしかして幾つも続くのか?」
最後の小さい箱に、一寸法師のサイズで、女の子が立っているのを想像する。
「何をおバカな」
軽く頭を振りながら、中の箱。
蓋を開く。
跳ね上がる蓋。
黒い煙が立ちのぼる。
声からは想像できないほどの生きの悪さ。
顔は半分崩れ、眼空が見え。目玉はなく赤く光っていた。
あー。リッチってこんな感じなのだろうか?
ふと、そんなことを考える。
そのまま腰が抜け、ストンと座り込む。
「ふむ。約束だ。貴様は許してやろう」
どこか空洞で反響するような声が、頭に響く。
周りが、急に明るくなる。
見回すと、腐った床。
明るくなったのは、天井が抜けているから。
いきなり新築が、廃屋になってしまった。
一瞬で、一気に百年でも経ったような感じ。
「浦島太郎」
つい、馬鹿なことを考える。
だけど本当に驚いたのは、外に出てからだった。
彼女を封じたのは、男だったのだろう。
そして、その恨みを晴らした。
きっちりと。
そう。町に戻ると、到る所で火の手が上がり大混乱。
解放したあの時。
俺以外の男が突然死んだ。
一人残らず。
それから後が大変だった。
まあ新国家で、俺は隔離されて、生きてはいる。
まるで、座敷牢に幽閉された種馬として。
夢見たことはあったが、実際やってみると辛いんだぞ……
KAC20243 その日。俺は何かを解放した 久遠 れんり @recmiya
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