押入れの奥に、閉じられた段ボールを

友真也

しまう

人生というものは、挫折で構成されているとたった今、私は知った。

叶った夢は箱の中に詰められていくように、そしてガムテープで開くことができないように閉じ込められた。

私がメンバーの一人である、天使と堕天使をモチーフにしたアイドルグループ、「光闇天使こうあんてんし」は、今日付けで解散する。


ラストライブが終わったあと、最後のファンサービスを終えて小さな劇場を後にし、外の空気を静かに吸う。

花粉が飛んでいるようで私は目を擦った。

正直、こうなる気はしてた。

そもそも、テレビみたいな煌びやかな世界に出られる存在は遥か遠く、地下アイドルの中でも人気はせいぜい下の上。

いくら頑張っても人気は伸びないし、どんどんステージに立つ機会も減って気づけば六年。

箱推しは少なく、個々人のファンもそれほど多くない。

ほとんどいないファンの中でも、私が、ガブリエルが一番なんて人は限りなく少ししかいなかった。

誇張抜きで、十中八九が一番顔の整ったメンバー、ミカエルか、スタイルのいいルシファーを推してた。

私は、残りのモブ四人のうちの一人だった。

そう考えてみると私の地下アイドル人生って、元彼の幻覚のように切なくて、儚いな。

十八で東京に上がってきて、夢だったアイドルになれた。

でも今は、二十四にもなって無職で、夢もあきらめて、汚いものも知って。

地元では、一番モテてたのに。

いくら努力しても、叶わないものだってあるってことも悟った。

男の人と遊ぶことだってあきらめたのに。

なんだか前を向けないな。

私は路地裏で泣いた。

周りに誰もいないことを確認して泣いた。

大きな声をあげることはなかったけど、確実に目からポロポロと、水晶の粒がこぼれ落ちてきた。

それの原因が花粉症ではないことは、すぐさま理解できた。

「でも、それでも楽しかったな」

私は一人でそう呟いた。

後悔は、なかった。

悔いもなかった。

私は押入れの奥に思い出の箱を仕舞った。

もう開けることはないだろう。

その箱は、誰かに開かれることを待っているかもしれないけれど。


路地裏を離れて、大通りに出る。

一人になって、何もなくなって、全部終わって、積み上げてきたものが全部消えて、東京という街に一人ほっぽり出された私。

なんとなく空を見上げてみる。

快晴の空は、祝福のシャワーを送っているみたいだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

押入れの奥に、閉じられた段ボールを 友真也 @tomosinya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ