宝のつづら

空峯千代

「ここに大きい箱と小さい箱があります!」

 「ここに大きい箱と小さい箱があります!」


 珍しく早めに起きた日のこと。

 リビングへ降りた僕に、宝はにこにこしながら聞いてきた。


 宝は朝からやたらとテンションが高かった。

 春であったかくなってきたからかな、とぼんやり考えたが、どうやら何か理由がありそうだ。


「才の好きな方を選んでくれたら、中身そのままあげるよ」


 雀のお宿かよ。

 僕は小さい頃に絵本で読んだ日本昔話を思い出した。


 そうは言われても、起き抜けでイマイチ頭は働かない。

 第一、宝の考えることだ。

 何かの意味を含んでいる気がする。


「うーん…」

「決まった?」


 中身を推測…しようとしても、ハッキリ言って分からない。

 宝の性格からして、この催し自体に意味がありそうな気もする。

 というよりは、笑顔を浮かべ続ける宝からは思考を読み解けそうになかった。


「......小さい方で」


 僕は大きい箱の半分くらいサイズが小さい箱を指差した。

 こういうときは、慎ましい方を選んだ方がいい…気がする。


「じゃ、こっちあげるね!」


 宝に小さい方の箱を渡されて、恐る恐る開けてみる。

 包装を解いて、中身を確認すると高そうなシュークリームが六個入っていた。


「おめでとーう! 入居一年記念のプレゼントでーす!」


 にこりと笑う宝は、プレゼントする側なのに嬉しそうだ。

 僕は一人じゃ食べきれない量のシュークリームを見つめながら「ありがとう」と口にする。


「ちなみに、大きい箱の中身は焼肉セットでした~」


 開封された大きい箱は、これまたお高そうな肉がビッシリ詰まっている。

 サシの入った厚みのある肉が敷き詰められているが、わざわざこのために買ったんだろうか。


「一人じゃ食べきれそうにないし、食べるの手伝ってくれない?」

「…最初からそのつもりだっただろ」


 宝と再会して、もう一年。

 この明かりの灯る箱で、僕は一年も過ごせてしまった。

 

「これからも楽しく暮らそうね」

「…努力する」


 まだ眠そうな僕を見た宝が、二人分の珈琲を入れてくれた。

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