2024本屋大賞ノミネート作全部読んだ

秋田健次郎

2024本屋大賞ノミネート作全部読んだ

 こんにちは、2024本屋大賞ノミネート作を全部読んだ人です。


 全部! と偉そうに言ってますが、せいぜい10冊なのでそんな大層なことでもないですが……。


 私は愚かな消費者なので、大賞という枠組みを与えられるとランキングを付けたくなってしまうのです。


 ちなみに、今年は本当に一つ残らず良くて比べるのが難しすぎました。気持ちはさながらM-1の審査員です。大体、児童書と純文学を比べてる時点で……ねぇ。


 他に読書日記というのを連載してまして、そっちの方で個別の感想は言い尽くした感があるので、詳しく知りたい人はそちらも読んでみて下さい!


 https://kakuyomu.jp/works/16817330668807593253


 この文章では、作品の内容にはほとんど触れず、感想だけを述べています。


 (ラストには、本屋大賞の考察もちょっとしてるよ!)




 1位:多崎 礼「レーエンデ国物語」

 ファンタジーをほとんど通ってこなかった人間が、ど真ん中の本格ファンタジーにぶん殴られて、衝撃を受けた。作中で描かれる動植物から、地名から文化から全てが空想という点で本格ファンタジーというジャンルはフィクションの究極系だと思う。


 描写力も圧巻で、あまりに美しい世界に魅了されて、ページをめくる手が止まらない。ストーリーは恋愛に重点を置いているという点で、重厚な本格ファンタジーでありつつ、手に取りやすいライトさも兼ね備えている。政治とかに振ると、どうしても小難しさが出てきてしまうからね。


 本格ファンタジーの入口としても、これまで色々読んできた人にもおすすめ出来る。本格ファンタジーのニューノーマル! という感じです。




 2位:塩田 武士「存在のすべてを」

 色んなジャンルがごちゃまぜで、なのに「愛の物語」としてのまとまりが凄まじい作品。


 未解決の誘拐事件の真相を追うのがメインの軸なので、一応ミステリー要素が多くはあるけど、恋愛要素や芸術要素も脇役とは言えない主役級の魅力を放っている。


 本作を執筆するのに作者が必要だった知識の量を思うと、感嘆しかないし、ある種の気迫を感じる。まさに、渾身の一作という表現が正しい。




 3位:宮島 未奈「成瀬は天下を取りにいく」

 成瀬という圧倒的なキャラクター。その一言に尽きる。


 キャラクターに振りきった小説で、これほど没入してしまうのは、やはり「成瀬」という人間の魅力でしかない。ちなみに、成瀬の周りにいる人物も相応に魅力的だったりする。


 小説というと、伏線とか展開とかを気にしてしまいがちだけど、本当に魅力的なキャラクターを用意すれば、勝手に物語が面白い方向に展開していくんだ……と感心した。





 4位:夏川 草介「スピノザの診察室」

 医療モノの皮を被った哲学書。


 本書を読み終わった後、スピノザの哲学書を読んでみたくなった。


 哲学というと小難しくて、日常生活には役立たない印象しかなかった。しかし、本作を読んで、「死」を考えるうえで人間は哲学が必要なのかもしれないと考えを改めた。


 私はまだ20代で、自分自身や身内でさえ「死」の当事者である感覚が希薄だが、これから年齢を重ねて「死」が近づいてきた頃に、もう一度本作を読み返したいと思う。





 5位:知念 実希人「放課後ミステリクラブ 金魚の泳ぐプール事件」

 本屋大賞初の児童書。


 子供向けと思ってなめてはいけない。これは間違いなく「本格ミステリー」だ。


 児童書ということで、文章は平易で読みやすいが、幼稚ではない。むしろ、不要な表現を削っている分、本格ミステリーに必要な要素だけが残されていて、ストイックな印象すらある。エンタメの本質は児童書にこそあるのかもしれない。


 ちなみに本作、「読者への挑戦」がしっかりある。わたしは解けませんでした。悔しすぎる……!






 6位:津村 記久子「水車小屋のネネ」

 近年まれに見るレベルで「善性」が濃縮された物語。


 色々な本を読んでいると、その後の展開をメタ的に予想してしまって、「次こそどん底に落とされるんじゃないか?」とよくない読み方をしてしまう。


 しかし、本作はそんな予想をことごとく裏切って、見事なまでに何も起きない。最初から最後まで、波風立たず、恐ろしいほど平和。


 こう言ってしまうと、読み応えのない平坦な物語に聞こえてしまうが、不思議と最後まで飽きずに読むことが出来る。それどころが、文字を進めるほどに心が浄化されていく。


 人の悪意に晒され、ハラハラドキドキに疲れてしまった人にこそおすすめです。





 7位:川上 未映子「黄色い家」

 人間模様の質感が凄まじい一作。


 ジャンルとしては犯罪小説に分類されると思うのだけど、読み心地も読後感も、純文学のそれ。


 作中に登場する水商売しか働き口がない人たちの納得感というか、そういう人たちを批判も賞賛もせずに、ただありのままの現実を描く感じ。


 貧乏な家に生まれたことはただ運だけのはずなのに、その違いがあまりにも大きすぎる。親ガチャという単語にはあまり好意を持てない私だが、当事者からすれば、ガチャとしか言えない不条理さがあるのだろうと実感させられた。





 8位:凪良 ゆう「星を編む」

 昨年、本屋大賞を受賞した「汝、星のごとく」の続編。


 続編が本屋大賞? 忖度とかあるんちゃうか? なんて思ってはいけない。本作単体で勝負できるほど、魅力に溢れた一作に仕上がっている。もちろん、前作を読んでる方が数倍楽しめるけど。





 9位:青山 美智子「リカバリー・カバヒコ」

 「明日から頑張ろう!」と素直に思える再起の物語。


 読者に色々考えさせたり、社会問題について考えを改める機会になったり、小説には様々な側面があるが、本作はそういう要素を抜きにして、心底、読者のことを励ましてくれる。


 それから、表紙がめっちゃ好き。タイトルにある「カバヒコ」というのは寂れた公園にあるカバのアニマルライドなんですが、表紙にもそのカバヒコが載ってる。そして、その表情があまりに良すぎる。


 万人にお勧めできる一冊です!





 10位:小川 哲「君が手にするはずだった黄金について」

 多面性のある人間をそのまま描く。複雑さに答えを与えないというメッセージを感じる連作短編小説。


 朝井リョウ作品が好きな人には絶対刺さると思う。


 表題作では、詐欺を働いていたのに、善良さも併せ持っていたようなよく分からない人物が描かれる。そもそも、現実の人間はアニメキャラクターのように、分かりやすい一面もギャップもなくて、あるのはただ、ぐちゃぐちゃに歪んだ訳の分からない自己愛だけなんじゃないだろうか。そんなことを思ってしまう。


「理解できない」向こう側の人間が、もしかすると自分とわずかでも共通する何かを持っているのかもしれない。


 連作短編形式なので、各作品ごとに全く違う魅力があるので、どれか一作は刺さると思う。個人的には、最後の小気味よいエッセイ風のやつも結構好きだった。




 考察パート


 今年の本屋大賞、どれが取ると思います?


 個人的には、今回のランキングのTOP3のどれかは確実なんじゃないかと勝手に妄想してます。


 本屋大賞は、女性人気の高い作品が取りやすい傾向があるような気がしていて、そういう意味では「レーエンデ国物語」になるかな?


 文学作品としての雰囲気は「存在のすべて」が頭一つ抜けてたような気もする。でも、本屋大賞というより「文壇」って感じかも。


 「成瀬は天下を取りにいく」はとにかく万人受けして、たぶんこの中だと一番売れてるはず。そういう意味でも、本作が本屋大賞を取った時の納得感はすごくあると思う。


 大穴として予想するのが「放課後ミステリクラブ」。最近、書店の売り上げが下がっている中、児童書だけは売り上げが伸びてるみたいな話を聞いたことがある。

 本屋大賞は書店員が投票するので、書店文化を未来へつなぐためにも児童書に本屋大賞という箔をつけて、売りやすくする。なんて可能性もあるんじゃないだろうか。

 もし、本当に本屋大賞取ったら、相当話題になると思うし、世の中のお父さんお母さんも子供に買ってあげたりするかも。



 てな感じで、今年の本屋大賞ノミネート作の感想と考察でした。カクヨムユーザーの読書量がどれくらいなのかは分からないけど、面白そうなのが一冊でもあればぜひ読んでみて下さい!

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2024本屋大賞ノミネート作全部読んだ 秋田健次郎 @akitakenzirou

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