第3話 これからのこととサブクエスト



村の中にある小さな酒場へとやってきた。


小さな村だけあって酒場も小さい。


この酒場には村の中にいるほぼ全員が集まるような場所になっている。


当然の話だが村の人達はほとんど顔見知りだ。


よって俺みたいに他所から来た人間は注目の的みたいなものになる。


「兄さん、見ない顔だね。名前は?」


そうやって話しかけてくるのは村人Aと言いたくなるようなモブ顔の女であった(俺もモブ顔なので人のことは言えないけど)。


そんな女の子に逆に聞くことにした。


「あなたは?」


実は名前は知っているが、初対面でモブの名前を言い当てるのも変だと思われそうなので聞くことにした。


「私はシエナ」

「そう、俺はリッカっていうんだ」


軽く自己紹介するとシエナは俺の対面に座ってきた。


「珍しいよね。黒い髪に黒い瞳なんて。ひょっとして……」


俺はその先の言葉を予想することにした。


「たぶん転移者って言いたいんだよね?」


目をまん丸にしたシエナ。


「すごい。私の言いたかったこと言い当てるなんて」

「たいしたことないよ」


そう答えるとシエナは興奮したように聞いてきた。


「未来予知?」


どうやって答えようか悩んだけど、


「まぁ、そんなところ」


ちなみにこの世界の未来予知というのはそこまですごいことではない。


1日探せば2,3人は未来予知ができる人間に会えるくらいのものだ。


でもぱちぱちと目を瞬きさせたシエナ。


「へぇ、すごーい。私初めて見たよ未来予知できる人」


目を輝かせてた。


「私の未来占ってよ〜」


「ごめんね。それは見えないんだ」


そう答えるとシュンとしていた。


「そっかぁ、未来予知でも見えるものと見えないものがあるって聞くしねぇ」


シエナはそれから謝ってきた。


「あ、ごめんね。なんか時間取らせちゃったみたいでさ。まだ注文してなかったよね?」


俺は肩をすくめてからシエナに聞く。


「気にしなくていいよ。それよりなにかオススメあったりしない?わかってる転移者でさ。この世界のことあんまり知らないんだ」


シエナは笑顔を作った。


「任せてよ」


メニューを見始めたシエナ。


それからオススメのメニューをいくつか教えてくれた。


俺はその中で一番気になったメニューを頼むことにした。


「んじゃ、この千年ガニのチャーハンってやつでも頼んでみようかな」


値段も1000Zと名前の割にそこそこ良心的?なようだし。


それに千年ガニなんて異世界限定のメニューだろうし、せっかくだしご当地メニューっての食べてみたい。


注文を済ませるとシエナが話しかけてきた。


「これからの予定はなにかあったりするの?」

「今のところは考えてないけど、王都を目指そうかなと思ってるよ」

「王都になにをしに行くの?」


そう聞かれて俺は「待ってました」と言わんばかりの顔で答える。


「もちろん、冒険者になりに、ね」


それが転移者のとりあえずのルートである。


王都に向かい冒険者になる。


ゲームでも転移者全員そういうルートを辿っていた。


まぁ俺が向かうのはこのルートがストーリー通りだからってだけの理由でもないけど。


(王都でやりたいことがあるんだよな)


それはずばり、サブクエストである。


このゲームだがサブクエの量が膨大ということで有名だった。


サブクエストだけで何千時間遊べるとか言われるくらいだ。

俺も全部遊べてないので、このゲーム世界に転移できたのはうれしいことだ。


(メインストーリーは走者が勝手にやるだろうし、俺はサブクエだけひたすらやってのんびり生きたいなぁ)


そう思っていたらシエナは微妙な顔をしていた。


「うーん」


顔をしかめるシエナ。


「どうかしたの?」

「あ、それがさ。今王都へ入るのがそこそこ厳しくなってるんだよね」


そう言われて思い出した。


(あー、そういえばそういうのあったよな)


なんか王都ではいろいろと問題があって入国検査ってのが厳しくなってるっていうストーリー。


で、その入国検査はなかなか解除されないという設定があったので主人公達はその検査に受かるための行動をすることになるんだが


(RTAのあいつはバグ使って入国すんのかね)


このゲームはバグがいくつかあって、RTAではその入国検査をスルーして入国することができる。


原作主人公の方はそのバグ使って入国すると思うけど、俺は急いでないので正規ルートで行こうと思う。


そこでシエナは俺に目を向けてきた。


「実は私も王都に用があってさ。いっしょに行かない?」

「俺でいいの?」


シエナは頷いた。


「うん。転移者さんなら強いよね?」

「さぁ、どうだろうね」


俺は肩をすくめた。


この世界転移者は無条件に強いと思われていることが多い。

そのためこの子もそう思っているようだが。


「そうだ。私今依頼を受けてるんだけどいっしょに行かない?」


じゃじゃーん、と依頼書を俺に見せてくるシエナ。



【困っているおばあちゃんを助けたい】


詳細:

おばあちゃんが病気にかかっちゃった。

それで近くの森で【癒しの薬草】を取ってきて欲しい。




(見覚えがあるな、これ。サブクエストか)


そして、これはそのうちの1種類である。


当たり前の話だが原作ではこうして、サブクエストを押し付けたりはしてこないんだけど。


(こうやってサブクエスト持って話しかけられるなんて、ゲーム世界にきたっていう感じするよなぁ)


こっちが話しかけるまで微動だにしないNPCじゃなくてちゃんと中身がいるんだよな。


(それはそうと、あの原作主人公大丈夫なのかな?)


このゲームのRTAチャート、道徳を無視したようなチャートや手順なんかも存在する。原作では中身がいないnpcだらけだだが、この世界でやるとなると問題が発生しそうだよなぁ。


俺は他人事ながらあの原作主人公を少しだけ心配していた。


まぁ、人の心配よりはまず自分のことだな。


俺はシエナに目を向けて話しかけた。


「うん。いっしょに行こうか」


原作との違いがあったりしないか、それを確認するいいチャンスだと思うことにする。


で、そのときシエナがキャンディを見てた。


「さっきから気になってたけどかわいいワンちゃん連れてるよね」

「うん。かわいいでしょ?キャンディ」

「きゃん!」


俺の頭の上に前足を乗せてくるキャンディ。


あぁ〜癒されるぅ〜。


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モブなのでひたすらサブクエやる事にしました~RTAプレイヤーに見捨てられた犬を助けて適当に生きてるだけなのに気付けば世界最強。一方犬を見捨てた奴はヒロインにも見捨てられてチャートが狂いまくって最弱 にこん @nicon

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