開けてはいけない箱

聖羅 

全ては望み通りにいかない

ある村にはこんな言い伝えがあった。

『祭壇の奥に安置されている箱を開けてはいけない。箱は開けた者の願いを叶えるが、それが必ずしも開けた者の思い通りになるとは限らない。』


この言い伝えを守り、他者が箱を開封しないよう守ってきた。


この箱を守ってきたのは代々神主を務めている一族であり、神主の一族以外はどこで管理しているのかでさえ知らないのだ。


神主候補は二人いたが、現在この箱を管理しているのは一人の男だった。


その男は非常に臆病だった。

箱を見るだけで怯えるような人間で、到底管理ができるようには見えなかった。


何故男が選ばれたのか…それはいたって簡単な理由だった。男尊女卑の考えが村ではまだ根強く残っていたのだ。


もう一人の神主候補は女だった。

性別が女だからというだけで神主になることが出来ず、閉鎖的なこの村の中で時間だけを彼女は消費していた。


そんなある日のこと…彼女はふとした瞬間に、箱のことを思い出してしまった。


彼女は神主になるために必要なことをすべて覚え、多彩な才能を活かして父親に認められるほどにまでなった。

それでも結局は神主の座は男の手に渡ってしまった。


昔は彼女も男のことを『兄』と呼んで一緒に遊んでいたが、いつしかそんな風に遊ぶことはなくなってしまった。

男は彼女に関わろうとしなくなったのだ。それでも彼女にとって男は兄だったのだ。


神主の座が男の手に渡ってからも、陰ながら支えていた。それに兄が神主になってからも、今までと同じようにやってこれたので気にしていなかった。


でも箱を思い出してしまった。

箱は人の願いを叶えてくれる。


彼女は願いを叶えてくれるという所に強く惹かれ、箱が安置されている場所に向かってしまった。


彼女は神主の一族だった。つまり箱が安置されている場所も知っているのだ。

それがいけなかった。彼女は誰にも気づかれることなく、箱が安置されている場所にたどり着き、箱を自分の懐へといれた。


そして彼女はその箱を開けた。

彼女は箱を開けた後、自分の願いを告げた。


「私と兄を昔のような関係に戻して。」


そして願いを告げた彼女だったが、すぐに効果を実感することは出来なかった。

なにかが変わったと感じることはなく、ただただ時間を浪費するだけになってしまった。


しかしその日…彼女は夢を見た。

その夢で彼女は次のような言葉を聞いた。


『願いはかなっただろう?。お前の兄が抱えていた好意を昔に感じていた感情にすり替えてやった。これでお前の願いはかなった。』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

開けてはいけない箱 聖羅  @kce65895

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ