くじ箱【KAC20243・箱】

カイ.智水

くじ箱

 A賞はなんと推しキャラの大型フィギュアである。服装もツボに入った。

 さっそくコンビニエンスストアでくじの対象商品を買うためレジへと進んだ。

 会計を済ませると、店員は大きな箱を取り出した。

「こちらの中からひとつお取りください」


 俺は手慣れた様子で箱に手を突っ込んだ。アニメのくじは引き慣れている。当然のように、中にはくじが詰まっていた。果たしてA賞のくじはどれだろうか。


 上に載っているくじはきっとE賞かD賞だろう。

 取りやすいからそこにA賞を仕込むと早々に目玉商品が店頭からなくなってしまう。それではくじが売れなくなってしまうだろう。


 たちの悪いコンビニエンスストアになると、店員がA賞、B賞、C賞のくじをあらかじめ抜いておき、誰にも上位の景品を取らせないように画策しているものである。

 だが、客に看破されれば景品表示法違反として店側が訴えられるのだ。

 そう考えれば、A賞やB賞、C賞のくじも入れざるをえない。


 とはいえ早々に引かれる事態は避けたいはずなので、あるとすれば手にとりづらい位置や状態にあるだろう。

 箱をよく掻き混ぜれば、店側の思惑どおりにはいかなくなる。


 俺は箱の中をぐちゃぐちゃになるほど掻き回そうと考えた。

 店側でさえもどれがA賞やB賞かわからなくするのだ。

 だがそれでは俺さえも当たりの見当がつかなくなる。


 箱に手を突っ込み、上にあるくじを掻き分けて、底に張り付いているようなくじを探ってみた。ただ、それがA賞かどうか確信は持てない。


 仕事の出先で訪れた初めてのコンビニエンスストアである。アルバイトや店長などの思惑もさっぱりわからない。

 だから当たりくじをどこに仕込むか、判断する材料に乏しかった。


「ちなみに、中を掻き混ぜてもかまいませんか」

「はい、お好きなだけ混ぜてください」


 ということは、ここは良心的なコンビニエンスストアかもしれないな。

 もし仕込みがあれば、掻き混ぜられたら困るはずだ。


 箱の底まで分け入ると、いちばん下にあるくじに触れたようだ。これを掴みながら、箱の中をぐちゃぐちゃになるまで掻き回す。

 そうしてから手に取っていたくじを引き抜いた。


「これでお願いします」


 店員にくじを渡すと、手際よくくじをちぎって中を確認し、それからこちらに向けた。

「おめでとうございます。C賞ですね」

 そう言って店員はカウンターの後ろに並ぶ陳列棚から中くらいの箱に入った推しキャラのフィギュアを差し出してきた。


「こちらでお間違いないですね。それでは袋にお入れしましょうか」

「お願いします」


 サラリーマンが出先でフィギュアの箱をむき出しで持って歩いていたら、決まりが悪いから致し方ない。

 レジ袋を購入してその中に入れてもらうことにした。


 アニメのくじはやはり上から取らないほうが良い結果につながりやすいと気づいた金曜の午後だった。



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