20話 いつか

 そして私は最後の悪あがきとも思える小説の執筆をすることにした。たまに、蓮が私を見ている気配を感じながら、私は描き続けた。私達の世界を。最初に生まれた私の彼氏に打ち明けたら、受け入れてもらえた。彼は、私に協力してくれるらしい。だから余計に申し訳がない。そんなところも、僕と似ていると言われた。ああ、僕達は幸せだったんだ。私は、それを奪ったんだ。そう実感した。

「僕君、可愛いね」

彼氏にそう言われる度、私は涙が浮かぶ。違うんだ。私は僕じゃない。僕は、僕だから。まさか、こんなに辛いなんて思わなかった。まさか、こんなに人を好きになるなんて思わなかった。だから、私は、今も苦しい。ずっと、苦しい。ぽてとを抱えて、今日も執筆しているけれど、ぽてとは笑顔で何も答えない。私は、私は……。

「蓮華さん、最近どうですか?」

「……」

「蓮華さん?」

「もう、限界です……」

「……そうでしょうね。頑張りすぎてるなぁと、少し思っていました」

「彼氏も、僕を待ってる。だけど、私は僕じゃない。僕だけど、私じゃない。私は、私は」

「蓮華さん、落ち着いて」

「私は、どこ……? 誰なの?」

「蓮華さんは蓮華さんです。それは間違いありません」

「……」

「蓮華さん?」

「せんせー! ぼく、ぽてと! 初めまして、じゃないよね! ぬいぐるみのぼくも、お世話になってます!」

「……あの、ぽてと君?」

「うん!」

「そうか。ぽてと君、こんにちは」

「こんにちは! ね。お姉ちゃん達ね、疲れちゃったって」

「それは、一時的に?」

「わかんない。ぼく猫だもん。それと、ぼく、ぬいぐるみ王国の話を作るの」

「ぬ、ぬいぐるみ王国?」

「そう。ぼく達の、希望と絶望が集まった、嘘と、現実と、夢の物語」

「小説って、ことでいいかな?」

「うん。でも、ただの小説じゃない。書き終わったら、先生も読んでね。それで、先生。――次の診察、いつにしましょうか」


 僕は、私は、ぼくは……。どんなデザインだったんだろう? それを見つけるために、ぼくはお姉ちゃん達と一緒に、旅をする。ぬいぐるみ王国を作るために。物語の中で。お姉ちゃんやお兄ちゃんが、いつかこっちの現実に戻ってくる。その日を待つんだ。

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僕のデザイン、乗っ取らないで! 根本鈴子 @nemotosuzuko

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