箱の中身はなんだろな!

正妻キドリ

夫の誕生日

「あなた、誕生日おめでと〜!」


 夫が部屋に入ると、妻がクラッカーを鳴らした。


 部屋の中は、華々しく飾り付けがされてあった。


 夫の誕生日を祝おうと妻が準備したのだ。


 夫は部屋の中を見回しながら、妻に言う。


「えぇ〜!?わざわざ用意してくれたのか〜!?ありがとう!すっごく嬉しいよ〜、美穂!」


 仕事帰りの夫は鞄を置き、妻の方へと向き直る。


 そして、そのまま妻を抱きしめようとした。


 しかし、妻は「あっ!」と何かを思い出したようかのように、自身の右手にあるダイニングテーブルへと歩み寄った。


 そのダイニングテーブルの上にある白い箱の前に立つと、夫の方を振り返り、手招きをした。


「あなたにプレゼントがあるの!」


 妻が笑顔で言う。夫は妻の方へと歩み寄りながら言葉を返す。


「本当か?ありがとう!一体、何が入っているんだい?」


「なんでしょうね?よかったら当ててみて?ほら、箱の中身はなんだろなってやつ!箱の左右に穴が開いてるから!当てられたらプレゼントをあげる!」


「えー、普通にはくれないの〜?」


 夫はわざとらしく残念そうにする。


「フフッ。」


 それを見た妻はクスクスと笑った。


 夫は左右の穴から両手を箱の中に入れた。


 箱の中に入っている物体に触れる。


「ん〜?なんか、モフモフしてるなー。マフラーとかかな?」


「ブー!違いまーす!」


 夫は別の場所にも触れてみる。


「…なんか、プニプニしてるなー。皮の財布とか?」


「ブッブー!ハズレでーす!」


 夫は少しだけ胸騒ぎがした。


 更に、その物体をよく触ってみる。


「…なんかブニョブニョしたものがついたんだけど、これって…もしかして耳…?」


 夫は恐る恐る聞いた。


 すると、妻は笑って答えた。


「そうかもねー!当たってるかもねー!」


 更に、触り続ける。


「…なんか、硬いものがあるんだけど…これって…歯…?」


 夫が聞く。


「…フフッ!」


 それを聞いた妻は、微笑みながら拍手をした。


 そして、妻は続けて言った。


「あなたの不倫相手…お元気?」


 ドタッ!!


 夫はその場に尻餅をついた。


 妻は夫を見下ろしながら、ゆっくりと近づいてくる。


 その右手には、ナイフが握られていた。


 夫は腰が抜けて立ち上がれない。


 なんとか、床に手をついて身体を後ろへと引き摺る。


 手がヌメッとしているのに気がついた。


 見ると、手には血がべっとりとついていた。


「ま、待ってくれ…!は、話を聞いてくれ…!」


 夫は恐怖に震えながら妻に言う。いつの間にか、妻の顔から笑顔は消えていた。


「話?話って不倫の言い訳ってこと?」


「そ、そうだ…!ほ、ほんとうに悪かった…!君を裏切るようなことをして…!」


「じゃあ…不倫したって認める?」


 夫は何度も首を縦に振る。


「あ、ああ…!お、俺が悪かった…!ゆ、許してくれぇ!!」


 それを聞いた妻は、ニコニコと笑いながらポケットからとあるものを取り出した。


 妻の左手に握られたもの、それはスマートフォンであった。


 そのスマホの画面には、ボイスメモの文字が映し出されていた。


「うふふ!ビックリした?」


 妻は親指でスマホをタップしボイスメモを止める。


「浮気の証拠、これで取れたから。」


「は…?どういう…」


 夫は何が何だか分からないといった顔をしている。そんな夫に妻は言う。


「ドッキリよ、ドッキリ!まさか、本当に私があなたの不倫相手を殺したと思った?」


 妻はニコニコと笑いながら、床に尻餅をついている夫の顔を覗き込む。


「ドッキリ…?じゃ、じゃあ…は、箱の中身は…」


「箱の中身?…あぁ!今のリアルフェイスマスクは凄いのよ?少なくとも、触っただけじゃ本物と違わなかったでしょ?」


 妻はそう言いながら、箱を開けた。夫が低い視点からその中身を確認する。確かに、それは本物そっくりな偽物らしかった。


「…。」


 夫は溜め息を吐いた。それは、殺されることはないと安心したからだ。


「…よ、よかった。な、なぁ…美穂。本当に…ごめん。…と、とりあえず、話し合おう…。」


 すると、妻は笑いながら言った。


「…フフッ。あなた、何か勘違いしてない?」


 妻はそう言った後、右手に持っていたナイフを振りかぶった。

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