第6話 哲学

 世界とは何か。

 人とは何か。

 自分とは何か。

 今だ人類が解決を見出すことができない領域、それが哲学だ。

 哲学によって、人類の知性が磨かれていったと言っても過言ではない。


 しかし、現代は価値観が多様化しすぎてしまった。

 かつては社会を結び付けていた哲学・思想の影響は日に日に弱まっていくばかりで、次から次へと新しいものが生まれていく。

 哲学の本が難しすぎることもあって、誰も哲学を考えなくなってしまった。


 僕の名前は時方悠。

 この現代を憂うる存在だ。


 20世紀のSF社会は日々近づいてきているように感じる。

 ”AIの脅威”といった言葉も週に一度は見るようになった。


 そんな哲学の希薄な現代が、彼女のようなモンスターを生み出したと言ってもよいだろう。

 堂仏都香恵どうぶつ つかえだ。


 彼女は動物を完全に使いこなすことができる。

 そのせいで、人間をかなり見下している。


「ボクが任されれば、日本中のモグラを集めて、リニアの地下鉄なんかすぐ掘れるよ。掘削作業員なんか1人もいらないね」

「万〇の設営? ツキノワグマを一万匹動員したらすぐできるんじゃないかな」


 と豪語しており、実際にそれくらいのことはやってのける。

 労働力不足の昨今、労働力を人間に頼らない彼女の会社はとてつもない売上を記録している。



 彼女のような存在は多分特別だ。

 しかし、この先、こうしたことが起こらないとどうして言えるだろう?

 AIの脅威を人は言う。

 その際に想定されるのは、AIが自力で進化したロボットだったりするものだ。

 AIが手近な動物と親和性を構築するという発想はない。

 人間は個体としてはあまりたいしたことがない。人間並みといかなくても優れたAIクラスの知能をもつ動物が担った方が良い仕事はたくさんある。


 例えばチンパンジーには協調性が致命的に足りないが、それ以外の能力は人間よりかなり上だ。ナリは小柄だが、パワーも俊敏性も人を遥かに上回る。

 AIが協調性のみを与えることができたらどうなるだろうか?


 そうした事例は山ほどある。



 AIには哲学が存在しない。

 そして多くの人間からも哲学が消えている。

 未来が動物には楽しく人間には厳しいアニマルプラネットになっていたとしても、決して不思議ではない。

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リアル現代に蠢くシュールで愉快なヤツラ達 川野遥 @kawanohate

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