【KAC20243】お題:箱 パート2

かごのぼっち

派閥争い

 天才召喚士ココ=ベアトリクスは今、異世界召喚なる魔法で異世界の勇者を召喚するべく、メア・スヴァルト辺郷国へと帰国していた。


 王宮の召喚の間にて異世界召喚の儀は行われる。


 ココは物々しいとは思いながらもゴテゴテと着飾らされて、教皇にでもなったかの様な衣装を着せられていた。


 部屋には数人の術師が魔力・詠唱補助の為に控えているだけで、王様率いる公族たちは少し離れた高台で見物している。


 ココはやれる!


 自分にそう言い聞かせて、予め描いておいた魔法陣の側まで歩み出た。


 召喚魔法に長けるダークエルフ族であっても、召喚魔法を使えるのはごく一部の者だけだ。


 ココは若くして、その中の一人となった。 まさに神童だの天才だのと呼ばれるほどに、彼女の召喚術は鮮やかで美しいとされる。



「さあ、始めようではないか!!」



 彼女の足元の魔法陣に光が差し、みるみるうちに召喚の間はその光に満たされる。



「時の神クロノスと空間の神カオスに願う! 彼方の時間より真の勇気ある者を! 彼方の空間より真の正義を掲げる者を! 我が元にお遣わしください!!」



 ココは指の先を少し噛んで、自らの血を魔法陣へと捧げた。


─ぽとり……


 途端に魔法陣は輝きを増し、部屋に満ちていた光は外にまで溢れ出た。


 光の中にひとつの闇が生まれ、次第にそれが縦に裂けて、闇の中から更に眩しい光が、


 ぼとりと落ちた。


 落ちた光はやがて周囲の光を集めて、ひとつの形を形成して行く。


「………………箱?」


 魔法陣の真ん中に、ひとつの小さな箱があった。


 ココは恐る恐るその箱に近付き、


 覗き見る。


「やはり、箱であるな……」


 ココはそれを拾い上げるとその箱を観察し始める。


 黄色と緑などで着色された、小さな長方形の箱の上に、柄の付いた山形の茶色いモノの絵があしらわれている。


 それが何かはともかくとして、勇者ではない事はあきらかである。


「失敗だ……」


「ココどの、今一度試みてみましょう!!」


「あと一度、お前たちやれるか!?」


「「「はい!」」」


「そうか、ならばやろうではないか!!」



 ココはその箱を部屋の隅に置き、今一度召喚を試みるために魔法陣へと歩み出た。



「失敗は出来ぬ……少し文言を変えてみよう!」


「「「はっ!」」」


「古の神、クロノス、カオスよ!! 我が願いを! 希望を! 時空を超えて届け給え!! 遥かなる時と空間の彼方に住まう勇者のもとへ!!」



 ココはナイフを握ると一気に引いた。


─ボタボタ…ボタタ…


 魔法陣は先程よりは格段に眩い光を放ち、部屋はホワイトアウトして何も見えなくなった。


 しかしその光の中にそれこそ禍々しいまでの漆黒の闇が生まれて八つに裂けて、今度は神々しいまでの鮮やかな光が、


 ぼとりと落ちた。


 落ちた光はやがて周囲の光を集めて、ひとつの形を形成して行く…。


が、


「………………また箱?」


 魔法陣の真ん中に、ひとつの小さな箱があった。


 ココは恐る恐るその箱に近付き、


 覗き見る。


「はあ、やはり、箱であるな……」


 ココはそれを拾い上げるとその箱を観察し始める。


 箱はやはり小さな長方形の形をしていて、緑と黄緑で着色された箱の上面に、今度は円錐状の茶色のモノが描かれている。



「はあ、はあ、はあ……もう魔力が持たん……失敗であるな」


「はあ、はあ、はあ、そうですね……」


「それにしてもこの箱……いったい何であろうな?」


「さあ……どちらも似たような形をしておりますね?」


「開けてみますか?」


「となると、ギミック鑑定・解除スキルが必要だが…」


「私がやりましょう…」


「おお、やってくれるか?」


「はい、お任せください…」



 名乗りをあげた男性はさっそくギミック鑑定スキルを使う。


─ルーン…


「これは……」


「どうかしたか!?」


「ギミックはおろか、施錠もされておりません!」


「なんだとっ!?」


「いやしかし……私のスキルでは及ばない上位スキルと言う可能性も……」


「ええい! まどろっこしい!

 ワシが開けてやるわ!!」


 公族と高台で観ていたと思われるゴツい鎧を着た大柄の近衛兵が突如として名乗り出た。


「異世界のモノ故、大変に危険ですぞ!?」


「かまわん! 向こうに回復スキル持ちだって居るのだ! ドカンと行こうではないか! オヌシらは下がっておればよい!!」


「で、では、用心されよ……」


 そう言うと近衛兵を残して召喚士たちは後ろに下がった。


 近衛兵は慎重に箱を持ち上げて、矢印のあるところから開け始めた。


─ベリリリリ……


「だ、大丈夫だ。 中にはまだ包装されたモノが入っている。 とりあえず、もう一つの箱も開けてしまおう!」


─ベリリリリ……


「ふぅ…。 鑑定通り箱にはギミックは無かった。 あとは中の袋を開封するだけだ」 


「し、慎重にやれ!?」


「わかっている……一気に開けるぞ!」


─パリリッ! パリリッ!


「……ど、どうだ!?」


「……うむ、箱の絵に描かれているモノが入っている……が、何なんだこれは!?」


 危険が無いことを確認出来たので、集まる召喚士たち。


 頭を寄せ合い、しばし考える。


「ワシだけかも知れんが旨そうな香りがするのだが?」


「いや、ボクもそう思っていたところだが……念の為に解毒してから口に入れてみるか?」


「そう…だな?」


 公族と高台に居た地癒術師が呼び出される。


「コレに解毒をかけてくれ」


「かしこまりました」


「神聖なる癒しの神ケイローンよ! かのモノの不浄なるものを取り払い給え!!」


─ルーン…


「これで大丈夫……だと思います」


「では……」


 それぞれが一つずつ手に取った。


「よく見ればコレはきのこに似ておるな?」


「言われてみれば……ならばコチラは、たけのこの様であるな?」


「ふむ。 食べ物を模して作ったのであれば、食べ物である可能性は更に高まったと言うものだろう! 先ずはきのこだ!」


─カリッ!


「「「「「「旨い!!」」」」」」


「では、もう一方のたけのこも……」


─サクッ!


「「「「「「旨い!!」」」」」」


「ボクは断然きのこが旨いと思うが!?」


「いやいや、ワシはたけのこだと思うぞ?」


「「きのこ!」」


「「たけのこ!」」


「ぬぬ……分かれたな!」


「だな!」


「かくなる上は、王にお決めいただこうではないか!!」


「「「「「異議なし!!」」」」」


 かくして、王の判断に任せることになったこの勝敗は……。



─カリッ!


「ふむ」


─サクッ!


「ぬぅ……」



 このあと、メア・スヴァルト辺郷国では内乱が始まったと言う。

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