どうも~、箱男です! 実はわたくし、このたび「島」買っちゃいまして!
めで汰
芸人箱男、島を買う
どうも~、わたくし顔も四角、体も四角。
気がついたら周りから「
◇
小学生時代(算数の授業中)。
「四角形!? 箱男やん! 箱男の面積を求めよ~! なんちゃって、ぎゃははっ!」
中学生時代(昼休み)。
「箱男が丸い弁当箱持ってきとるぞ~(笑)!」
高校時代(放課後)。
「おっ、こんなところにゴールポストあんじゃん! オラッ、シュート!(バキッ)」
「サンドバックじゃね?(ドスッ)」
「いや、ゴミ箱っしょ~、ペッ!」
高校中退。
学歴中卒。
自動車工場に就職。
下町の小さな工場。
クビになった。
原因は、溶接作業の時に火花から目を守る保護ゴーグルが顔にハマりきらなかったから。
私の顔は四角いだけではなく、デカくもあった。
溶接作業で飛んだ火花のせいで、私の頬には無数のやけどの跡がついていた。
体も顔も四角いボンクラ。
おまけに頬にはやけど痕。
中卒の無職。
死のうかと思ったが、両親が悲しむ。
死ぬのはいつでも出来る。
両親が死んだら死のう。
それまでは、どうにか──。
とはいえ。
四角い顔の母親。
四角い体の父親。
この二人に対して恨みがないわけではなかった。
二人の遺伝子が下手に噛み合ってしまったせいで、私はこうして箱男になってしまったのだから。
両親に対する復讐は、私がお笑い芸人となることで果たされた。
◇
♪ カモベイ~ベッ、キャンキャンキャンキャンキャンキャ~ン!
「どうも~、箱男です~! むぅ~、四角っ! ……ほら、ここ、カクカクってなってるでしょ? ほ~ら四角い、カックカク~。腰もつられてカックカク~なんつってね、ハハ。
いや~、それにしてもみなさんびっくりされたでしょ、急にこんな全身が角張った男が出てきて。大丈夫ですよ、そんなに目を丸くされなくても。ボクにつられてみなさんの目も四角くなったりはしませんから。感染りませんよ~、この四角フェイスは~、安心してくださいね~。
でね、突然なんですけど私整形しようと思ってるんですよ。はい、整形。いや、『親からもらった体にメスを入れるなんて~』って言う方もいらっしゃるかもしれませんが、もうすでにメスどころじゃない傷がつきまくってますからね。ほら私、顔がでかい上にカクカクしてるじゃないですか? だから色んなんとこにぶつかりまくるわけですよ。例えば。
楽屋に入る時に『おはようございま~……ガツン!』
タクシーに乗る時に『すみませんどこどこまで~……バタン、ガツンっ!』
トイレの便座の蓋を開けたら『バタン、ガタン、バシンっ……ブリッ!』ってね。
たぶん、そのうち命を落とすんじゃないかな~。それくらいなら、もういっそメスでも入れて、安全な丸顔の小顔にした方が良いかなってね、そう思うわけなんです。もしボクが丸顔の小顔のツルツルのもち肌になったら、そんなトラブルも一切起きませんからね。
楽屋に入る時は『おはようございま~……つるんっ、すとん、すべすべ~、鏡に写った私キラキラ~』
タクシーに乗る時は『すみませんどこどこまで~……え? どこまで行くかもうわかってる? この丸顔が全てを教えてくれてる? えぇ~……? そ、そうですかぁ……?(まんざらでもない顔)』
トイレの便座の蓋を開けた時は『ふわっ、つるんっ、すとんっ……ブリッ!!』ってね。
え? 最後だけ変わってない? いや、変わってます。前よりもたくさん出てますから。体の内部までつるっつるになってますからね。とまぁ、ともかくこの四角い顔を整形したらそれだけのメリットがあるのは明白なわけで。じゃあ、その四角い体まで整形したら一体どうなるのか! ……決勝に行けたら、その続きをお話します。では、箱男の箱話、最後まで聞いていただいてどうもありがとうございました~」
♪ ベコベッ、キャンキャンキャンキャンキャンキャ~ン!
◇
芸名:箱男
受賞歴:箱宮恵比寿お笑いコンクール優勝
HACお笑いコンテスト優勝
オールハッコ準優勝
ハコ1グランプリ優勝
キングオブハコント優勝
ハコメンタル第一回・第七回優勝
ハコポングランプリ第八十六回優勝
◇
たまたま。
たまたまだ。
たまたま売れた。
だって自分で自分が面白いなんて思ったことないから。
両親への、過去への復讐のためにお笑い芸人になったらたまたま売れてしまった。
幾ばくかのお金も入ってきた。
もともと欲のない人間だ。
使い道がない。
もはや復讐する気も失せてしまった両親に使おうとしたが、二人とも私が四角顔をネタにすることをよくは思っていなかったようで、受け取りを拒否された。
私が多忙なこともあり、次第に疎遠になっていった両親は──死んだ。
自殺。
遺書には「ごめんね、そんな顔に生んで」と書かれていた。
ああ。
ああ。
なんということだ。
私は復讐する気などとうに失せていたのに。
私が四角顔をネタにするたびに両親は傷つき、苦しみ、悩んでいたのだ。
皮肉にも、復讐は成立してしまっていた。
徐々に仕事を減らしていった私は、本当に受けることにした。
整形手術を。
結果は成功。
今も『ハコタン美容整形クリニック』のホームページに私の術前、術後の写真が載っているのでよかったら見てみてほしい。
ただ、私の芸人としての人生はそこで終わった。
ウケない。
笑えない。
「どうも~、元・箱男で~す。いや~、今見るとつるつる肌の小顔の丸顔フェイスでしょ? でもね、私こう見えてもちょっと前まではカックンカックンの四角顔でして~。ほ~ら、腰もつられてカックカク~なんつって……」
うぇ~ん!
赤子が泣き出す。
「あぁ、ちょっと! 誰!? 赤ちゃんなんか劇場に連れてきたのは!? わかるでしょ!? 連れてきたらどうなるかくらい!? ほら、さっさと出ていって! 出ていくまでネタストップするから!」
この発言がネットで大炎上。
私は事務所をクビになった。
それからは迷走の一途。
地下インディーズ芸人として舞台に立つも、結果は散々。
しまいには頭から段ボール箱をかぶって舞台に立つようになっていた。
だが当たり前のようにウケない。
もはや、ただの危ない人。
誰も私をイジってこようなどとしてこない。
学生の頃にいじめられてた以下の扱い。
あれより下があるとは夢にも思ってなかった。
空気ですらない。
無。
無になった。
私は。
親もなくし。
人と関わることのできていた特徴の「四角」すらもなくした私は。
素顔を世間様に晒すことに恐怖した。
頭から段ボールをかぶる。
それが私の常になった。
外でも。
家の中でも。
最近は便利なもので、家にいながらもネットで買い物ができる。
ネットで買物をすると、届く。
段ボールが。
色んな段ボール。
大きさも材質もそれぞれ。
使われてるテープだってバリエーションに富んでいる。
私は安い粗雑なやつが好きだった。
高いのはつるつるしてて、つるつる丸顔の私がかぶると、するっと飛んでいってしまう。
粗雑なザラザラした段ボール。
これだと私のつるつるフェイスにも負けず摩擦力を発揮して顔に引っかかってくれる。
私の部屋は粗雑な段ボールで埋め尽くされていった。
ただ、一つ問題もあった。
宅配便の人が怖がるのだ。
私を見ると。
私は他人を怖がらせるために段ボールをかぶっているわけではない。
ただ、この特徴のない丸顔を見られたくないだけなのだ。
私は決断した。
買おう、無人島を。
さいわい金だけは有り余っている。
どうでもいいと思って突っ込んだ仮想通貨が爆上がりして無駄に資産を築いていたからだ。
◇
段ボール島。
そう呼ばれる場所が中国地方にある。
その島は一面段ボールで覆い尽くされ、世界各国からやってきた観光客の冷やかしの名所となっている。
島の周りをボートで周回すると、段ボールを頭からかぶった現地人が手を振って追いかけてくる。
ずっと。
ずっと。
ずっと。
「お~い!」
「お~い!」
「お~い!」
そう呼びかけながら。
「知ってるかぁ~!?」
「地球は、地球はなぁ~!」
「四角、四角なんだぞぉ~!」
「オレも、オレも昔は!」
「四角、だったんだぁ~!」
「お~い!」
「お~い!」
「お~い!」
「聞いてるのか~!? お~い!」
お~い?
聞いてるのか?
ここだぞ、ここ?
見てるんだろう?
四角く薄い板の中を?
四角い画面の中を?
見てるだろ?
今?
箱の中を?
お~い?
どうも~、箱男です! 実はわたくし、このたび「島」買っちゃいまして! めで汰 @westend
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます