【KAC20243】勇者とサダキチと宝箱

龍軒治政墫

第1話

「勇者どのー! 宝箱を見付けましたでありますー!」

「でかしたぞ、サダキチ!」


 勇者一行――と言っても二人でありますが、迷宮をさまよっていました。決して、道が分からなくなったのでは無い。探索しているだけです。


 このサダキチ、途中で立ち寄った農村の少年でありまして、鼻が非常に効きました。こうやって宝箱の位置を探してくるわけです。


「サダキチ! トラップはありそうかい?」

「ちょいお待ち」


 サダキチは鼻を近付けて、宝箱をクンクン。

 あちこち嗅ぎ回って、

「トラップのにおいはしやせんぜ」

「そいじゃあ、開けてくれ」

「へい!」


 宝箱には鍵がかかっていましたので、解錠道具を使って鍵穴をいじり始めるサダキチ。


「ところで勇者どの。なんでこういう迷宮に宝箱ってあるんでしょうね。誰が置いてるんでありますか?」

「そいつぁ聞いちゃいけねえ。こういう場所の宝箱ってなぁ、ロマンが詰まってるんだ。誰が置いたとか、誰の物だとか、気にしちゃあいけねえ」

「そうでありますか」


 なんて喋っている間に、宝箱がカチリ。鍵が開きました。


「念の為、気を付けて開けろよ」

「へい!」


 サダキチはそっと蓋を開けてみましたが、中身がありません。


「あれ? あれれ?」

「サダキチ、どっかにタヌキの絵は描いてないか?」

「タヌキ?」

「『たからばこ』の『たぬき』で『からばこ』だ」

「いやぁ、描いちゃあおりやせん」


 サダキチは宝箱をぐるりと回って見ましたが、何も描いておりません。


「ひょっとして、中に何かが?」


 そう言ってサダキチが宝箱を覗き込むと、上半身がすっぽり吸い込まれます。


「うわぁぁぁ?」


 そのままサダキチは箱の中へと吸い込まれていきました。


「サダキチィィィ」

「勇者どのぉー!」


 サダキチの声は遠くなっていきます。


「死ぬ前に言っておくでありますー! あっし、実は女でしたー!」

「なぁにぃ!?」


 勇者はサダキチが消えた宝箱を覗き込みます。


「するってぇと、これがホントの箱入り娘、てか?」

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