短編103話  数ある受け入れるのか内見を!

帝王Tsuyamasama

短編103話  数ある受け入れるのか内見を!

明里あかり昨日観たか! 最後にぶっ飛ばして爽快だったぜ!」

「うん、精霊の力って、ああいう意味だったんだね!」

 昼休みの教室で、この俺宇藤うとう 雪時ゆきときと、前後の席で並んでしゃべっている女子は、二西にさい 明里あかりだ。

 小学一年生で同じクラスとなったときから、中学三年生となった今でもよくしゃべる友達だ。

 私服登校の小学生だったときから、男子は学生服・女子はセーラー服となった制服登校の中学生となっても、よくしゃべる友達だ。

 十一月となって、じわじわ寒さ威力が上がってくる学校生活でも、明里とは変わらず今日もしゃべる友達なのだ。

 髪は肩を越す長さっぽいのだが、ほとんど毎日、ひとつにくくられている。修学旅行とかのよっぽどでかい特殊イベントのときは、ごくまれに髪が下ろされていることもある友達だ。

 おいそこの視聴者の諸君。本当に友達だからな明里は。

「やっほー。そーいえば明里、明日ないけんだっけ?」

 と、右手を縦に上げながら登場したのは、これまたよくしゃべる仲である三樹みつき 香央かおだ。

 髪の長さ的には明里とそれほど差がないように見えるが、明里はまっすぐくくっているのに対して、香央は右側にくくっていることが多い。身長は明里よりも香央の方が大きい。

 ……ん? 香央は友達かって? もちろん友達さ。

「うん、そうだよ」

 今、ないけんって言ったよな。ないけんとはなんのことだろうか。剣がないのか、なにかの検定試験なのか。

「十二月には引っ越ししたいから、十一月の今からないけんしておくって、お父さんが言ってたから」

(…………え?)

「そっかー。新しい家、遊びに行くかんねっ!」

「うん、来てねっ」

(新しい……家? 引っ越し……?)

「あーあたし掃除場所中庭だー。またねんあかりんときりん~」

「またね」

「お、おぅ……」

 香央と明里が仲良しなのは、名字に数字が入っているから~とえっへん顔で語る香央(いやシャレのつもりじゃなかったんだがゲホゴホ)なくらい、確固たるものなはずだ。

 なのに……引っ越し……? 香央はまったくさみしそうに見えなかったぞ……。

 いや、あえてさみしくないふりをしているのか? しかしあの香央だぞ。さみしいことはさみしいと明里に泣きつく姿も、容易に想像がつくのだが……。

(てか香央のことはともかくとして……俺……)

 明里が引っ越しとか、今初めて知ったんだがぁーーー!?

(いやいやいやまてまてまて……俺……俺、今の今までずっとずっとねばってきたんだぞ!)

 なにをか。それは。

(……卒業式で明里に告白する告る計画をなあ!!)

 小学生のときからちょっとは好きでしたぁ! 中学生になってもっと好きになりましたぁ!

 でもしゃべってるの楽しいし、もし振られたら俺もう二度と立ち直れねぇし。

 だから、ひたすら仲良しゲージを溜めて、かつ成功率を少しでも高めるため、絶好のシチュエーションである卒業式までねばりにねばってきたのだ!

 なのになのに!

(十二月に……引っ越し……だ、と…………?!)

 中学卒業したって、一緒にいるつもりだった明里と……もう、こうしてしゃべることすらも……そんな……。


「それじゃあね、雪時くん」

「あ、ああ。じゃあな……」

 午後の授業も終わり、明里といつもの別れのあいさつ。

 席替えで前後の席になって以降、ほぼ毎日行われているやり取りだ。

「……ど、どうしたの雪時くん? なにか……ついてる?」

「ぬあぁ、いや、いきたまえあかりくん」

「ふふっ、昨日の兵隊長さんのものまね? また月曜日ねっ」

「ああ……」

 この笑顔の明里とも……もう……。

「雪時ー、行こうぜー」

 と、俺と行動を共にすることを今日も誘ってきたのは、青衣あおい おさむだ。

 身長は俺よりも少し高い。小学校のときから仲いいし同じ部活の所属だったから、部活へ行くときにはよく一緒に行っていた。

 俺たちは三年生のため、もうすでに引退しているわけだが、今も一緒に帰ることが多い。

 クラスメイトたちも、続々と教室を出ていく。その中の一人に、明里の姿もあるわけで。

「な、なぁ修」

「なんだ?」

「ないけん……って、なんだ?」

 修は俺よりも幅広いジャンルのゲームをしているからな。きっとないけんということも知っているだろう。

「ないけん? 家見に行くやつのことか?」

「家を、見に行く?」

(引っ越しの話は、もうそこまで進んでいるのか!)

「例えば雪時が、高校入学するときにアパート借りるとしてさ、アパートの中見ずにいきなり契約するか?」

「……いや、中の様子見てから決めたいだろう」

「図面だけぱっと渡されただけじゃ、情報足りねぇだろ? 一回そのアパートまで実際に行くことで、周りの様子見たりとか、写真とかではわからない細かいところに気づけたりとか、まぁそういうのをしに行くことさ」

 つまり契約前の見学みたいなもの……か?

「漢字は?」

「内野のないに、見るでけん。漢字も知らなかったのか?」

 なんだなんだ……なぜ俺だけこんなにも取り残されているのだ!

「く、詳しいな」

「不動産ゲームしてたからな。内見のときに説明がうまい社員をよく雇ったな」

「なんだそのゲーム」

 明里は……別に俺と一緒にいたいとかは、ないのだろうか。



 土曜日



 はー、今ごろ明里、内見とかってのに行ってるんだろーかー。

 でかそんな大事なこと、俺にも少しくらいしゃべってくれてもさぁ……普段あんなにしゃべってんのに。



 日曜日



「お、いい社員いるじゃん。うまく使えよ。おっし内見希望のお客さん来た」

「なんか面接官した社員がベタ褒めしてたから雇った……えーっと命令はこれか。広告作り? こいつにさせて……いや俺も参加しとくか」



 月曜日



「おはよう、雪時くん」

「お、おーはよ」

 いつもは教室で会っておはようすることが多い明里だったが、今日は門の近くで会った。外側にくまさんが描かれた、茶色い手袋もしている。

 多くの学生たちが門をくぐり、玄関ポーチへと歩いていく。その流れの中に、俺たち二人も並んで歩いていっている。

(明里の横に並んで歩く、か……)

 引っ越してしまうっていうことがわかってからは、なんかこうして、ひとつひとつのことが特別なことなんだと、改めて感じた。

 もう当たり前じゃないんだよな、明里としゃべるの。

「なぁ明里」

「なに?」

(もう、一緒にいる時間は当たり前じゃない。ならば……言うしかない!)

「今日、一緒に帰らないか?」

「えっ?」

 小学校は通学団があったし、中学では同じ部活の修たちと一緒に帰ることが多かった。だからいきなりこんな誘いをしたら、怪しまれるかなぁとは思ったが……

「ぁなんか用事あるーとか?」

「ううんっ、一緒に帰ろ!」

(よしっ)

 俺…………言うわ!!



「じゃな雪時」

「ああ」

 月曜日を選んだもうひとつの理由! それは修が塾の日だからである! これならばだれにも怪しまれず作戦を遂行できるな!

 その修の後ろ姿を見送ったあと……

「それじゃあ雪時くん、帰ろっかっ」

「あ、ああ」

 俺は立ち上がった。そう、立ち上がらねばならない! 後悔する前にっ!


 今朝一緒にくぐった門を、帰りも明里と一緒にくぐっての下校。

 これもまた、当たり前じゃないことのうちのひとつ、だろうか。

「雪時くんは、近衛騎士団どう思う? やっぱり怪しいかなぁ?」

「んー表立って行動できないって言ってんだから、単に命令以外のことできないだけなんじゃ?」

「でもじっとしてたら、間に合わなくなっちゃうよっ」

 アニメの話もいいんだけどさ。もっとしたいけどさ。いつまでもしたいけどさっ。

「あいつら強いんだから、やるときゃやるさ……ってそれはそれとして。明里っ」

「なに?」

 今、この左隣にいる明里と、いつまでも……

(……離れ離れになっても、やっぱり俺は!)

「明里はさ。俺と~……いつまでもこうやって、しゃべってたいか?」

 ってよく考えると、この聞き方だと夜も寝ずにとか、そんな意味にもなってしまうか?

「うん? うん、雪時くんとなら、いつまでもおしゃべりしていたいなっ」

 そうか。それでもさみしさとかを顔に出していないのは、明里が強いからだろうか。それともしゃべりはしたいが、いないならいないで別にとか……そんななのだろうか?

「俺は……明里がいないと、困る」

「えっ? 困る……?」

 明里がこっちを見ている。だが言わないといけない。今横に明里がいる間にっ。

「明里。俺は明里と付き合いたい。俺と付き合ってくれないか」

(…………言ったあー俺ぇーーーー!!)

「……え、わっ、私、と……?」

「明里と言ったら明里だっ」

 そうだろう驚かせてしまっただろう。でも俺は言った! さあ俺の想い、届けっ!

「……きゅ、急すぎるよぉ……」

(あぁーだめだったかぁー!?)

 少し視線を落とした明里だったが、

「でも……」

 またこちらを見てくれた明里。

「……ありがとう。私でよかったら……雪時くんの彼女さん、なる」

(うおっしゃああーーー!!)

 予定より早く言うことになってしまったがっ! やった! やったぞ俺ぇー!!

「よ、よろしくな」

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 ああ、こんな笑顔な明里に出会えて、本当によかった……。

 遠く離れることになっても、俺の明里への気持ちは、いつまでも変わらない。


「…………ぷっ! くすっ、あはっ、あはははっ!!」

「ぬぁーーー!! 笑うなそんな笑うなうぉらぁー!!」

「引っ越したら、雪時くんも、また遊びに来てねっ。一緒にお出かけもしようねっ、ふふっ」

「内見だとか引っ越しだとか聞いたら、めっちゃ遠いイメージだろうが!!」

 今住んでるところは、明里のおじいさん家だから、明里の家族は駅の近くへ引っ越すんだってさ。広めでよさげな家があったとかで、そこ見に行った……ってさ。

(だから香央もあんないたってノーマルな……!!)

「つーかそもそもなんで俺にはその話してくれなかったんだ!」

「だっていつもアニメとかいろいろ、おしゃべり楽しいんだもん。言うタイミングなかった、っていうか……ぷふっ」

「ぬぉあーーーーー!!」

 ……ま。手を握って、これから新しい当たり前を作っていこうか。

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短編103話  数ある受け入れるのか内見を! 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

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