マインスイーパー内見

@yanenite_yoru

まいんすいーぱーないけん

 こんなに素晴らしい物件に出会えるとは思っていなかった。格安、家具付きで駅に近い。一年間の赴任には完璧だ。気持ちの上ではほとんどこの家に決めてしまっている。


 彼は玄関で直立しているが、部屋に進んでいただいていいですよと促され、一歩入る。床を覆っているホコリが、入り込む光に照らされている。最後に掃除したのはいつなのだろうか。玄関のすぐ近くに置かれているベッドだけは全くシワが寄ることなく整えられているのがかえって不気味に思えた。


 ただ、安いのだけあって何やら事情があるらしい。幽霊は信じていないが、念のため聞いておく必要がある。

「あまり気にしてなかったのですが、告知事項有りというのは何ですか」

 不動産屋の彼は「あー、はい、えーと」とぶつぶつ呟きながら手元の資料をめくっている。

「あ、こちらは地雷物件ですね」

 なにか大きな問題があるということだろうか。ここに来る前は高齢者の孤独死を予想していたのだが。

「具体的には……?」

「はい、部屋のあちこちに地雷が埋まっております」

 彼はこともなげにそう告げた。部屋に一歩踏み込んでしまっていることに気づき、すぐさま玄関に戻る。耳を疑い聞き返しても同じことを言われる。


「なぜ歩くのに危険にさらされないといけないんですか。おかしいでしょう」

 つい語気が強くなってしまうと、彼は聞き飽きたというように肩を少しすくめた。一枚の紙を見せてくる。紙はマインスイーパーのように細かいブロックにわけられており、数字が書いてあった。

「戦争の名残りみたいですね。まあ地雷の場所を特定できたら安全に住めますから。嫌でしたら他の物件をお探ししますよ」

 どうやって家を建てたのかについては昔の知恵だろうとわけの分からないことを言って流されてしまった。

「まあピラミッドと同じですよ。とにかく、どうされますか。もっと奥に入っていただいて構いませんよ」

 そういいつつ自分は微動だにしない。いくら条件が良くても命は危険にさらせない。この物件をあとすることにした。

「そうですか。人気の物件なのでちょうどよかったです」

 しかし、地雷のことを知れば誰もここに住む人はいないだろう。彼は一本線を引いたように目を細くして微笑み、続ける。

「明日から告知しなくてもよくなるんです」

 事故物件でないのだからそんなわけないだろうと怒りを露わにする。地雷が作られてから推定される年数から、不発のものだろうとされるのでいいという。

 つまり、俺がこの事実を知っている最後の客ということだ。


「こう見えて一時期マインスイーパーにハマっていて、世界大会の上位まで上り詰めたことがあるんです」

 俺は覚悟を決めた。

「怪しいところに目印としてこちらを置くといいですよ」

 彼は満足げに頷く。玄関の収納棚にはいくつものブロックが積まれている。

「では、ご納得いただけるまで内見が済んだら、お伝えください。私は契約の準備をしてまいります」

 確実に地雷が埋まっていると予想される区画に渡されたブロックを置いた。

「あ、まずい」

 本能的にそう思った。その瞬間、地雷は爆発した。ゲームと違い、怪しいところに旗はさせないのだ。破裂音の中で、何も考えず言われるままにしたことを後悔した。

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