第33話 新しい武器と新しい魔法
ほっこり暖かそうなグローブが新しい武器。これが新しい武器とはあまり思えない。防寒具や常備具と言った方が適切な気がする。
とはいえ、カイリは今すぐにでも着けて欲しそうにしているので、俺はグローブを付ける。
「……この気温じゃ少し暑いかもな」
「でも、似合っているよ。あとで対面で修行する時に指輪はめて、魔力を込めてみてよ」
「ん、わかった」
今は指輪も付けていないので、グローブ付けている必要もないため外した。
「それで、新しい魔法ってなんだよ」
「気になる?」
「そりゃあ、まあな」
「教える魔法は至ってシンプル。魔力を感知する魔法だよ」
「魔力を感知って……。そんなのできるのか? どの魔導書を読んでも書いてなかったぞ」
「そりゃあ、人間の魔法は研究が遅れているからね」
カイリがさらりと、人間の魔法は魔族の魔法よりも遅れている、と言い切った。
「人間は魔法を研究して開発するのに紙やペンを走らせすぎなのよ。作りたい魔法があれば、似ているような近い魔法を研究し、開発していく。……まあ、つまりはプロセスを明確にすればいいのよ。それなのに人間は紙に書き残して満足する奴が多すぎるのよ」
彼女が責めているのは机上の空論で終わらせる研究者なのだろう。
本来、研究とは目的がなければ、研くことも、究めることも、始められない。
目的=作りたい魔法。
これを解決するためにプロセスを明確にして魔法開発すれば、速いテンポで研究が進むだろうが、人間はそのプロセスを明確にできてないので、進捗が魔族に比べると遅いのだ。
今回、魔力を感知する魔法は人間の魔法では存在しないが、魔族の魔法では存在する魔法だ。
ならば、それをカイリから教わるということだ。
「魔力を感知する魔法って簡単か?」
「まあまあ、それなりには。でも、君の場合は難しくなるだろうね」
「まあ、大変なのはわかったよ」
魔力感知は魔族の魔法だ。人間の俺には難しいのだろう。
✳︎✳︎✳︎
旅路の中で休憩は必ず必要なもので、一日中歩き続けるなんてことは不可能なものだ。
その休憩の最中に俺はカイリと一緒にみんなから離れた場所で向き合った。
「んじゃ、さっそく修行といこっか」
「あいよ」
カイリの言葉に俺は指輪をはめてグローブを付ける。
そして、魔力を指輪に込める。すると、グローブが光り、形を変えた。
黒色なのは変わらないが手に引っ付くようにスリムになり、手の甲にはクリスタルの装飾。クリスタルを囲うように魔石が並び、グローブの所々には銀の装飾がされている。
「それが魔族で研究された
「シュバルツって、またぶっそうな名前だな」
俺はそう思いながら指輪に魔力を込めるように、グローブへ魔力を込める。そして、火属性の魔法を発動させれば、グローブは炎を灯した。
「ん〜。なんだか版権で怒られそうなグローブだ」
「カッコいいは正義よ」
目元をキリッとさせたカイリが言い切るが、自信げな理由はわからない。
「まあ、まずは手合わせで格闘戦がどれくらいできるのか見せて貰うかな」
そう言ったカイリはポーチからグローブを取り出して手に付けた。そして、魔力を込めると変形するが、俺とは違い、宝石の装飾がないようだった。
「あんたのは装飾がないんだな」
「当たり前でしょ。私は魔石を付けてないんだから」
どうやら、このグローブは身に付けている装飾によって形が変わるようだ。そうすると、手の甲のクリスタルは何故現れたのか不明だ。
「行くよ」
カイリは言葉に頷くと、彼女の姿は一瞬いなくなると目の前に現れた。彼女のいた場所には炎のようなものが煙のように昇って消えた。
と、そういう場合ではなく、カイリは片手を握り、殴ってくるフォームをしている。このままでは顔に一発重たいのを貰ってしまう。
それを避けるために俺は両手を顔まで持ち上げてガードの態勢を作る。そのガードの位置にカイリの拳はやってきて、俺はガードするものの勢いに押されて後ろに下がった。
あまりの威力にカイリを睨むが、彼女は再び煙のように炎を残して消える。
またしても正面に来ると思い両手でガードの態勢を作るが、彼女はやって来ず、気配が後ろからすると思い振り返るが、既にカイリの拳が振り下ろされ、俺は拳の勢いで飛ばされていた。
数回、地面をバウンドして飛ばされるが、飛ばされている間に体勢を整えて踏み留まると、カイリに向き合う。
「……意外と出来ないタイプ?」
「あんたが強いんだ」
カイリに煽られて俺は反論する。
「でも、まだ続けるよ」
彼女の言葉に俺は身構える。
先程のように瞬間移動すると思っていたが、カイリは走ってこちらに寄って来ており、俺にいくつか拳を振りかざす。
今までと違い、目に見える攻撃なので、身体を振りながら交わしていく。
……先程の攻撃は本気だったが、今は手を抜いているのだろうか。
そう思いながら避けているが、反撃するのも難しい攻撃の応酬だった。
せめてものでカイリの動きに拳を合わせようとするが、簡単に交わされてしまう。
どうするか。そう考えた時にグローブに魔力を込めて炎を灯すことを思い出した。
何か変わるのか。そんなことを思ったが、やってみなければ何も変わらない。だから、魔力を込めて炎を灯す。
赤と橙に燃えあがる炎。彼女の拳を掌で受けようとすれば、攻撃を直前で止める。
……何故?
そう考えるが、考える前に次の攻撃がやってくる。
彼女の攻撃の勢いに押されたまま、手合わせが終わり、俺は仰向けに寝転ぶ。
「……いや、くそ辛すぎっ!!」
呼吸も整う暇もなく、ひたすら攻撃を防ぎ続けなければいけないのはしんどい!!
「まあ、初めにしてはいいんじゃない? 私の攻撃を炎で防ごうとしてたし、反撃に魔法が使えるようになれば良い線いくと思うよ」
カイリは頬を少し赤くし、頬に流れた汗を手の甲で拭った。
「本当か? 全くできる気しなかったけど?」
「本当も何も……。できると信じなきゃできないんじゃない?」
それはそうかもしれないが、現状は俺に実現できるか不安に思う。
「まあ、なんとかなるよ。ならない、なんて今は考えても仕方ないよ。できるって信じてやるしかないんだから」
「そうは言ってもなぁ」
「自分で自分を盛り上げてやらなきゃ、できることもできないぞ。自分を過剰に信じるのはいけないけど、低く見積りすぎるのもいけないぞ」
自分を低く見積もる、か……。自己肯定感の問題だろうか。ネガティブに考え過ぎているのかもしれない。
……いや、難しいことは難しいよな。これは出来るのか、出来ないのか、判断できるのが大人なのではないだろうか。
俺が何も言わないのを察したのか、カイリは言葉を続けた。
「できないって言えるのはいいことだよ。でも、できないをできるに変えなきゃ何もできないままだよ。それはどんな人でも、どんな年齢になっても同じだよ。君にはできる。やればできるようになる。だから、私は君に教えるんだ」
まるで心を読んだような言葉だ。突き刺さる言葉だと思い、これが彼女のカリスマ性なのだと、客観的に思えた。
「……まあ、続けるよ。これからも教えてくれ」
俺はカイリにそう言ってお願いした。
魔王が倒された世界で家出した勇者一行の僧侶とパーティ組みます 永川ひと @petan344421
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