佐賀県のとある駅の待合室に文化事業して設置されたピアノがある。
ピアノの椅子は駅に出入りする猫にとって寝心地の良い格好の居場所。
駅に来る人の中にピアノを弾いたり、ちょっと賑やかな女の子や男の子がいた。
楽し気なひと時。彼らと『猫』の交流が始まる。
楽しく踊るときもあれば、時には何も話さない『猫』に悩みを語り愚痴ることもある。『猫』はただそれを傾聴し、時間が許すまで彼らの側に佇む。
やがて駅で出会う彼らは成長し、それぞれ自身の進むべき道をみつけ、その決意を自分に言い聞かせるべく『猫』に語りかけることがあった。
『猫』は彼らの言葉を理解できるが、自身の気持ちは人に対し言語化して伝えることができない。
そして『猫』は彼らの奏でるピアノの音色を聞くたびにある決定的な変化に気付く。
そのため、『猫』にとって彼らとの交流は別の大切な意味を持つ時間となった。
人も『猫』も等しく時間は流れ過ぎ去っていく。失ったもの。届けることが出来なかった言葉。
彼らは『猫』に各々その時々の胸中を吐露する事はできたが、過去から未来、そして今をどうすることが出来たのだろうか。
逆に彼らを見守ることしかできない『猫』の胸中は如何ほどのものであったか。
第三者として物語を見つめる読者は落涙するのみ。
しかし『猫』と彼らは確かに家族であった。
この物語は恐らくは唐津線にある実在の駅をモチーフに創作されたものと思われます。
カクヨム読者のみならず、この駅利用の方々にはぜひ一読していただきたい物語です。
プリントされた本作がピアノの側にあれば素敵ですね。
他の地方では設置されたピアノが壊されたりもしているようですが、願わくば今日もピアノのある本作の駅は『猫』と共に穏やかな時間が流れていますように。