第4話 妖精女王が隠していた秘密

「そんな訳ないでしょキーック!」

「何ィィィ!」


 気力が抜けたそのタイミングでのキック攻撃。魔王は仕留めたはずの相手からの攻撃に驚きながらも、咄嗟に防御魔法を発動してそれを防ぐ。

 攻撃を弾かれたりりすは、空中で回転して姿勢を正すとそのまま地面に着地した。


「不意打ちでもダメかあ」

「貴様、何故生きている!」

「簡単な話だよ、直撃寸前で空間跳躍しただけ」

「ぐぬぬ……」


 魔王は自身の攻撃を避けられた事実に下唇を噛む。全くの無傷でピンピンしていたりりすは、悔しがる魔王に向かって挑発的な笑みを浮かべた。


「さっきの魔法、何度もは打てんでしょ。じゃあ、あーしにも勝機はあるね」

「調子に乗るな! 魔法少女風情が!」


 この煽りに、魔王は再度杖を構える。また何かしらの強力な魔法を使うようだ。りりすはそのタイミングで新しいステッキを出現させると、早速固有魔法を叫んだ。


「パープルインパクト!」


 ステッキから放たれる紫の光。魔法を発動させようと硬直していた魔王は、その魔法を全身に浴びる。魔王はすぐにこの紫の光の効果を分析した。


「魔法を封じる魔法か……」

「そーよ。これでもう自慢の魔法も使えんでしょ」

「笑止! 余は魔道具でも魔法を引き出せるのだ!」


 魔王は懐から頭や手足が複数ある気味の悪い像を取り出して自慢する。どうやらそれが魔王の真の切り札らしい。この展開に、りりすはニヤリと口角を上げた。


「レッドインパクト!」

「何ィィィ!」


 対象物にテレポートして確実に破壊するりりす本来の固有魔法が、魔王自慢の魔道具を一瞬で粉々にする。切り札を呆気なく失なった事で、流石の魔王も放心状態。

 そこで、りりすはグッと拳を上空に上げた。


「ピーチ、見てるんでしょ! 来て!」

「は、はいいいいい!」


 そう、実は魔法少女ピーチはりりすと魔王のバトルの途中から駐車場に来ていたのだ。ただ、あまりに激しいバトルだったため、参戦のタイミングを逃しまくっていた。

 じっと見守る中で不意に名前を呼ばれたため、ピーチは反射的に飛び出してりりすの隣に並び立った。


「見てたの、知ってたんだ?」

「ったり前でしょ。行くよ!」


 2人の魔法少女はうなずき合うと、息を合わせて大ジャンプ。そこから魔王に向かって魔法を使った超スピードで急降下する。


「「スーパーWマジカルキィーック!」」

「何だとォォォ!」


 動揺していた魔王はこのキックをまともに受け、ダメージを受けながら空高く弾け飛ぶ。力を使い果たした魔王に抗う術はもうない。後は他の魔法少女に任せてもいいだろう。

 こうして、たった2人の魔法少女が魔界最強の魔王を完膚なきまでに倒したのだった。


「「やったね!」」


 全てが終わり、2人は見つめ合いながら笑顔でハイタッチ。魔王軍からの侵略の脅威はなくなり、2人はその場にぺたりと座り込む。

 最後の美味しいところだけをかっさらったピーチは、改めてりりすの顔を見た。


「りりすちゃん、ついに予言が成就したね」

「あっそう言えば」

「忘れてたのー?」


 2人は顔を見合わせて大笑い。その2人の笑顔の影では、ひっくり返って体をピクピクさせるトリの姿があった。


「な、何とか耐えきれて良かったホ……。僕はもうダメホ」

「あんた、また酷使されて。本当にお疲れさんだよ」


 彼の苦労を労うのマリルの前で、トリはガクリと気絶。それがこのラストバトルの壮絶さを物語っていた。



 魔王軍の脅威が去って数日後。今度こそ魔王は逮捕され、城の地下室に幽閉される。完全に危機が去った事で、アリスは改めて妖精女王に呼ばれる。表彰でもされるのかと、彼女は気負わずに妖精界に足を踏み入れた。

 妖精城の謁見の間でアリスは片膝を突く。女王はそんな彼女に優しく微笑みかけた。


「よく来ましたね、天王寺アリスさん。いえ、ロア・リーグさん」

「えっ?」


 アリスは、誰にも伝えていない本名を女王の口から告げられて困惑する。


「驚く事はありません。ああ、そうでした。まずは謝罪しましょう。今まで真実を隠していたのです。本当にごめんなさい」

「えっと、話が見えないんですけど?」


 いきなり謝罪をされて、アリスは更に困惑する。


「では皆さん、入ってきてください」

「ロア!」

「お父さん? いや、えっ?」


 女王の呼びかけに現れたのは、眼鏡をかけた優しそうなアリスの父親。その後も魔王に殺されたはずのアリスの家族や一族の皆さんが、困惑する少女の前にぞろぞろと集まった。


「これは、どう言う?」


 この唐突なご都合主義的な展開に、アリスは素直に事実を受け入れられない。そんな彼女の前に、眼鏡をかけた彼女の母親が事情を説明する。


「実は、襲われた時に女王様に助けられていたの。でもそれがバレたらまた命を狙われてしまうから、今までずっと秘密にしていたのよ。ロアばかりに淋しい思いをさせてしまって本当にごめん。予言通りにロアが魔王を倒してくれて本当に良かった」

「お父さん、お母さん……。これ、嘘じゃないよね? 嘘じゃないよね!」


 つまり、女王は魔界に伝わる予言も把握していて、そのためにしっかり計画を立てていたと言う事らしい。予言の成就のために予言のシナリオ通りに事を進め、アリスを鍛えていたと。

 自分が誘導されていたと言う事実より、目の前にもう会えないと思っていた両親が現れたと言う事の方が衝撃的で、アリス、いや、ロアは両親に抱きついて号泣する。


「生きてて良かったあ! うわあああん!」

「今までずっと辛かったよね。これからは一緒だからね」



 無事に両親や一族と再会したロアは女王にお礼を言って一旦人間界に戻り、お世話になった人達に挨拶をする。

 ももはロアと抱き合って、彼女の身に起こった幸せを自分の事のように喜んだ。


「アリスちゃん、いや、ロアちゃん、本当に良かったね」

「どっちの名前で呼んでもいいよ。あーし、こだわらんし」

「ううん。やっぱり本当の名前で呼ばなくちゃ。でもお別れなんだよね」


 ももは目に涙をためていた。そう、両親と再会出来たロアが人間界にいる必要はない。彼女は両親や一族と供に魔界に帰るのだ。


「ゲートを通ればいつでも会えるよ、だから遊びに来て」

「逆にロアが遊びに来てもいいんだよ?」

「そうだね。うん、落ち着いたら遊びに行くよ」


 こうして、ロアは由香やももに見送られながら魔界に帰った。そこで、彼女は予言に合わせて新しい魔王になる。実力主義な魔界では、魔王を倒した彼女の新魔王就任に誰も異を唱えなかった。

 魔王の親になったロアの両親は、貴族になる事を拒否して眼鏡屋を再開。魔王の親族のお店と言う事で大繁盛している。


「全ては丸く収まったホね」

「なんでまだトリがいんの? ここ魔王城なんだけど?」

「僕は女王様からロアのお目付け役を任されたんだホ。暴走したらすぐに止めるホよ」

「はいはい。せいぜい頑張ってね~」


 そう、ロアの隣にはトリがいる。2人はこれからも腐れ縁で、ずっと仲良く暮らしていくのだろう。



(おしまい)

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魔法少女りりす! 最終決戦! にゃべ♪ @nyabech2016

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