第3話 魔王VS魔法少女

「久しぶりだね、魔王様」

「リリス……だと? カイめ……しくじりおったか」

「そんなにあーしに会いたくなかったの? じゃあ逆にあーしの勝利確定じゃん」


 会って早々、りりすは魔王を挑発した。その馬鹿にするような物言いに、魔王の堪忍袋の尾は切れる。


「余はな、貴様が四天王を全員倒したと聞いて出向いてきたのだ。そのふてぶてしい態度、ますます気に食わん」

「じゃあどーする? もうあーしに奪える魔力はないよ? あんたは魔族の魔力しか奪えない」

「魔力は魔力だ。ふん、出来るかどうか試してやろう」


 魔王はすぐに自分の身長より大きな杖を生成する。その先には巨大な黒水晶がはめ込まれていた。彼はすぐにその杖でアスファルトを勢いよく突く。


「マドレイン!」


 詠唱と供にアスファルトに闇の魔法陣が描かれ、ルールに従って図形が回転していく。その動きによって黒い触手が現れ、りりすにむけて次々と襲い掛かってきた。

 その攻撃に見覚えのあったりりすは呆れ顔を浮かべ、小さくため息を吐き出す。


「それ、もう見飽きたんだわ。オレンジインパクト!」


 その固有魔法は全ての魔法攻撃を弾き返す。魔王の放った魔法ですら例外ではなかった。黒い触手は固有魔法が生み出したオレンジの光のドームに侵入する事が出来ず、やがて消失する。

 この結果を目の当たりにした魔王は、あんぐりと口を大きく開けた。


「そ、そんな馬鹿な……。余の魔法が弾かれるなどと……」

「四天王からの報告は聞いてなかった? 同じ魔法使ったんだけどなあ」

「し、知らぬ! あやつらはクビにした! 役立たずなどいらぬ!」

「あれま。かわいそ」


 攻撃は防いだものの、防御ばかりでは意味がない。りりすはオレンジのステッキを握りながらパレットを開き、攻撃用のステッキを吟味する。


「えーと、どれがいいかな?」

「なんてヤツだ。貴様はやはり余が倒さねばならぬな」

「今さ、魔界は魔王が不在な訳じゃん。ほっぽってていいの?」

「余が戻ればすぐに元通りよ。それより、今は貴様を倒す方が先だ」


 魔力吸収を断念した魔王は、改めて杖をりりすに向ける。その先には既に超高濃度圧縮された魔力の塊が出現していた。


「一瞬で消し炭にしてやるわ! マクスプロージョンマックス!」


 それは黒魔術で生成した闇の爆炎魔法。魔王の得意呪文だ。その危険性を秒で察知したりりすは、すぐに同系列魔法で対消滅を試みる。


「マジカルエクスプロージョンフルバーストォ!」


 魔王の闇の爆炎魔法と魔法少女の光の爆炎魔法。2つの爆炎魔法は空中でぶつかりあい、巨大な爆発エネルギーを生み出した。その強烈な光と熱と爆風は術者2人を同時に空高く吹き飛ばす。


「ぐおおお!」

「くううっ!」


 先に地上に降り立って体勢を立て直したのはりりすの方だった。彼女はまだ魔王が吹き飛ばされている最中なのを確認して、すぐにステッキをかざす。


「マジカルデッドレイン!」


 詠唱と同時に魔王の頭上に複数の時空の穴が開き、その全てから鋭い剣が出現して魔王に迫った。この攻撃をまともに喰らえば魔王ですらかなりのダメージになると、りりすは踏んでいた。

 けれど、剣が眼前まで迫ったところで魔王の表情に変化は訪れない。


「馬鹿め!」


 魔王はその剣全てを手で薙ぎ払いながら魔力を吸収していく。いくら物理的なダメージを与える魔法とは言え、元々が魔力で作られてるものだけに魔王の魔力吸収の魔法が効いてしまうのだ。

 この流れはりりすにとって想定外だったために、彼女は目を大きくする。


「嘘でしょ?」

「今度はこちらの番だ!」


 魔王はすぐに吸収した魔力を使って極大魔法を繰り出し、りりすは固有魔法でそれを弾く。攻撃が効かない魔法少女と、どんな攻撃も吸収する魔王との攻防は、全くの消耗戦に見えた。

 しかし、長期戦になれば魔力が減るばかりの魔法少女に分が悪い。りりすは用意したステッキの固有魔法の中にこの状況を打破する魔法がないか試すものの、毒や幻覚などの間接的攻撃魔法すら自身の魔力に再転換してしまう魔王に手も足も出なかった。


「くははは! どうしたあ、最初の勢いが嘘のようだな」

「くうっ……」


 いくら全ての魔法を弾く魔法を持っていても、その魔法も魔力を消費する訳で――。りりすは徐々に追い詰められていく。


「流石は魔族の王を名乗るだけあるじゃない。あーしもしっかり準備していたんだけど、想定が甘かったかも……」

「フハハハ! やはり余の敵ではなかったわ!」

「くっ、そうだ!」


 苦戦する中、りりすは魔王の体質を推論し、それに囚われない攻撃方を試す。つまり、推進力は魔力由来でも攻撃自体は物理で行うと言うものだ。


「ぶっつけ本番だけど、まずは実験!」


 彼女は今までのバトルで砕け散ったアスファルトの小さな塊を拾い上げると、それを放り投げてそこに魔力をぶつける。その推進力を受けた塊は超スピードで飛んでいき、余裕をぶっこている魔王の頬をかすめた。


「惜しい!」

「よ、余の体を傷つけただと! 許せぬ!」


 頬を触ってそこから流れる自分の血を確認した魔王はブチギレ、杖にどす黒い闇の感情を乗せた魔力を乗せていく。ズシンと重くなる周囲の気配に、りりすは冷や汗を垂らした。


「ヤバいね……。ここまでとは……」

「余を怒らせた事、地獄の底で後悔するが良いわ!」

「はぁ? あーしが行くのは天国だっての!」

「どちらにせよ死ねええ! 極大魔法ダークエンドオオオ!」


 魔王の持つ杖から信じられないほどの魔力の塊を感じ取ったりりすは、すぐに上空に飛び上がる。すると、自然に魔王の狙いも上空に修正された。


「飛んで逃げても無駄あああ!」


 詠唱終了と供に、杖から極太魔法のビームが発射される。触れたものを何もかも破壊する厄介な攻撃魔法だ。これほどの出力であれば、魔法攻撃を弾く固有魔法のオレンジインパクトですら持ち堪えられないだろう。

 ビームがりりすに直撃する瞬間、魔王は勝利を確信する。


「終わった! 余の勝利!」


 その宣言と供に、りりすの展開していた魔法壁はビームを弾ききれずに粉々に砕け散って散乱しながら消失。貫通したビームは、背後にある山まで大きく削り取った。

 ビームを発射し終えた魔王は、標的が跡形もなく消えたのを目視で確認してグッと拳を握る。


「確実に蒸発したな。ふん、余に逆らった末路よ……」


 魔王は強い魔法を使った反動でガクリと膝を落とす。流石の魔王も魔力は無尽蔵ではないようだ。家臣のいる場では弱いところを見せない彼も、自身しかいない場所ではポロリと本音を漏らす。


「リリス、流石の余もヒヤリとしたぞ。ああ、本当ヤバかった。殺せて良かった」

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