【KAC20242】アタシは腐った優良物件ちゃんです☆

ほづみエイサク

アタシは腐った優良物件ちゃんです☆

 また新たな男が『内見』にやってきた。

 

 好青年を擬人化したかのような姿をしている。


 高身長かつ背筋がピンと伸びていて、仕立てのいい背広を着ている。

 顔立ちはパッとないけど、とても清潔感がある。


 品のいいウッディ系の香水の香りをまとっていて、まさに『イイ男』っていう雰囲気だ。


 今までの候補者の中で、ぶっちぎりの『イイ男』だ。


 この人になら、住んでもらってもいい。

 いや、この人に住んでいただきたい。

 そう思っちゃう。



「おー。いい部屋ですね」



 好青年が感心したように言うと、その後ろをついてきた中年男性が口を開く。

 彼は不動産屋だ。



「そうでしょう。ここは弊社も一押しの物件でして。角部屋で日当たりもよく――」



 不動産屋はゴマを擦りながら、アタシのいいところを言い連ねていく。


 

(いいぞ、もっと押してけ!)



 アタシはとにかく応援し続けた。

 それだけしか出来ないんだけど。

 

 アタシは築8年、駅近10分の高層マンション――その2階の角部屋だ

 日当たりも風通しの良好で、道路からも離れている。


 敷金礼金がお高めなのはご愛敬。


 いわゆる優良物件。

 それがアタシ。


 ついでに元社畜OLが転生した姿でもある。


 前世のアタシは『彼氏いない歴=実年齢』の喪女だった。

 学生時代はBLにハマり、生粋のオタクとして過ごしていた。

 だけど就職した途端、趣味の時間が取れなくなって、精神的に衰弱していた。


 そしたら駅のホームで倒れて、線路に落ちて、貨物列車に轢かれて死んだ。


 死ぬ間際、アタシは理想の人生を妄想していた。


 マンション経営で不労所得を得る人間が羨ましかった。


 稼働時間は少なく、アニメや推し活に存分に時間を裂けるだろう。

 

 それに、マンションの一室をオタク部屋にして、自分だけのオアシスを作ることもできる。

 推しの誕生日だって数日前から準備してお祝いすることができる。


 そんな夢のような生活。


 そんな人生を送りたかった。


 アタシは、アタシは――



――マンションになりたかった!


 

 気が焦りすぎて、言葉が一部飛んでしまった。

 本当は『マンション経営者になりたかった』だ


 普通は『おかしな遺言』で終わっただろう。


 でもなぜか、ほんっっっっっとうになぜか、神様が聞き届けてしまった。


 神様は言葉通り・・・・に願いを叶えてくれやがって、現在のアタシはマンションとしての人生を歩んでいる。


 アタシだって悪いところはあったよ?

 でも、神様だってもう少し心を読んでくれてもいいよね?

 それに、キャンセルを受け付けてくれなかったし。


 融通の利かないネットショップかよ。


 あーもー。

 愚痴を言っていてもしゃーなし。


 今は好青年のことに集中しよう。

 まあ、動けないから何もできないんだけど。

 


「いかがでしょうか。これ以上の物件はそうそうないですよ。お値段には見合っていると思います」



 不動産屋のセリフに、アタシは強く同調した。



(そうだぞ! これを逃したら、アタシのような優良物件に二度と会えると思うなよ!)



 絶対に逃がしたくない。

 アタシは興奮気味に応援していた。


 する突然、好青年が手を広げ始めた。

 まるで天気雨を確認するみたいに。



「なんか、湿っぽくないですか?」

「あれ、そうですね」



(あ、やっちゃった! 興奮しすぎた!)



 いつもやってしまう。

 興奮しすぎると、不可解な雨漏りを起こしちゃう。


 一体何が漏れているのかは、アタシにもわからない。


 これのせいで何人ものイケメンに逃げられてしまったんだ。

 少しずつ値下がりしていっているし、本当に困ってしまう。


 こんな仕様にした神様を許さない。

 今度、神様がガン堀りされる妄想してやる。ゼッタイ。

 アタシを舐めるな。概念同氏を絡ませられるイプの腐女子だぞ!


 そこ、貴腐人って言わないでっ!


 アタシが一人でヒートアップしていると、好青年は不思議そうに小首を傾げた。


 

「うーん、気のせいかなぁ」



(そうだぞー。気のせいだぞー。部屋から怪しい汁が出ることなんてないぞー)



 アタシの念が届いたのか、好青年はスルーしてくれた。

 それとも、元々細かいことを気にしない性格なのかもしれない。


 そうだったら嫌だなぁ。

 部屋を散らかすかもしれない。


 でも、一見しっかりとした人がゴミ部屋に住んでいるシチュもいいなぁ。

 ギャップ萌え。


 そう考えると許せるかもしれない。

 だけど、臭いのはさすがにキツイ。

 いや、イケメンの体臭と思えばギリギリいけるかも?


 そんな感じでアタシが妄想にふけっている間にも、商談は進んでいた。



「ここに決めました」



 待望のセリフを聞いて、アタシは何度もガッツポーズをとった。


 彼の身長なら頭をドアにぶつけてしまうことがあるだろう。

 あの衝撃、とても好きなんだよね。

 それに、水道の蛇口を力強くひねられるのもたまらない。


 寝相が悪いとなお良しだ。

 突然壁が叩かれると、言いようのない快感が走り抜ける。


 きっと、痛みが快感に変換されるようになっているのだろう。

 この点だけグッジョブ! 神様!!


 まさにアタシは有頂天だったのだけど、好青年がさりげなく衝撃の一言を放つ。



「ここなら、恋人との同棲生活にちょうどよさそうです」



 アタシの全身に――いや、マンション中に衝撃が走った。


 好青年と不動産屋は笑顔で契約を進めはじめてしまった。


 だけど、アタシだけは呆然としている。



(またリア充のイチャコラを見せつけられ続けるの……?)



 愕然とするしかない。


 いや、知ってた。

 これで3度目だもん。


 

(あー。いつもこうなんだよね。アタシ、3LDKだもん)



 広すぎて、独り暮らし向けではない。

 器の広い女は、いつも損をするものなのだ。


 まあ、とりあえず雨漏りしないように頑張ろう。


 そう気合を入れなおしていたのだけど――


 好青年のいう恋人がオッサン・・・・・・・だったことで、一波乱が起きるのだった。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

なんだこれ……?(困惑)

主人公を腐女子設定にしたら、オチすらも塗り替えられました"(-""-)"


あと、一応言いますけど、作者は腐女子ではないので

小説ならBLでも構わずに食っちまう男なだけです♂


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