第16話 ダブルより大きい二段ベッドを作る

子どもが和室の二段ベッドで寝る。さて大人はどこで寝る?

別室に布団を敷いて寝ていたが、いずれは6畳の洋室を子ども部屋にしようということで、別室にも二段ベッドを作ることにした。もう私に相談がある頃には大工の心の中では決定事項なので誰も止められない。


いそいそとペンと紙を持って、毎日毎日お絵描きをしている。

設計というより、まずはお絵描き。

最後まで設計は紙とペンでやっていた。

すごくラフな図だ。


できた!


というが、こんなラフで大丈夫なんだろうか。


さっさと近所のホームセンターに行って、角材を何本か調達してくる。

足りない工具を買って、ねじを箱買いしてくる。


まずは鉛筆で角材に線を引いて、いきなりギコギコ鋸で切り始める。


まだ木材を乗せる台がなかったので、キッチンカウンターの上に乗せて切っていく。


「うあぁ!!!」


と叫び声がしたと思ったら、大工がカウンターのふちを心配そうに撫でている。

カウンターのふちを鋸で切ったのだ。あーあ。


でも不思議と、後にも先にも大工が家の何かに傷つけたのはこの1回きりである。すごい。私がやったらもう玄関扉にはじまり、あらゆるところに角材ぶつけて家じゅうぼこぼこだろう。


どんどん書いて、どんどん切って、時にはきらずに長いままの角材を使ってベッドのふちを作っていく。

1回も設計書なんて見てない。

我が家の二段ベッドのパーツの数はざっと数えて20~30種類ほどある。

大工はそれぞれのパーツの長さや太さが全て頭の中に入っている。

頭の中で計算して、組み立てて、実際に木材に印をつけて切ったり組み立てたりしていく。


さすがにこれには驚いた。


大工は安全を考える癖が染みついている。それは本職が自動車関係の仕事をしているからだろう。


強度を考えるのがとても重要だと私は何度も教えられた。

教えてくれなんて1回も言ってないが、強度については常日頃から言い聞かされている。謎コミュニケーション。


ベッドもどうしたら強度が保てるか、大工なりに考えて設計している。

二段ベッドに寝たことがある人ならわかると思うが、結構揺れる。

上は特に、自分の寝返りでも揺れるし、下に寝ている人の寝返りでも揺れたりする。

如何に揺れを抑えて、かつ安全に作るか、一生懸命考えている時大工の目はキラッキラしてた。

そうだね、大工はこういうことがやりたいから脱サラして大工になりたいんだよねと改めて思った。


結局できたのは大工過去一の自信作の二段ベッドだ。

なんと1階は3畳ほどあり、ダブルサイズより大きい作りになっている。2階は普通のシングルサイズ。

そして1階の下は収納スペースになっている。

3畳ある引き出しなどを作るのは大変だし、時間もかかってしまうので、

なんと1階の床板が全て外せるようになっている。

床板を外して、上から物をしまうスタイルだ。


そしてベッドの脇には、収納棚までついている。ちょうどマンガがおけるようなサイズで、マンガ大好き勢にはたまらない。天井にはフックを付けてものがかけられるようになっていたり、もうそのベッドの上から出ないで生活する気まんまんじゃん!という至れり尽くせりなベッドができた。


今回はちゃんと梯子も作って2階に安全に上がれるようになっている。


子どもの友達が遊びに来るとみんな面白がってその梯子を上ってはベッドの上で何人も固まって遊んでいる。子どもって高いところ好きだよね。

少なくともその梯子から3人は落ちてる。安全とは。


しかし実際に妹は「パパと寝る」と言って、1階のダブルで寝ているので2階は誰も使ってない。こちらも物置として大活躍している。


そのベッドのもう一ついいところ。

支柱に子どもたちの身長を書き込んでいってる。

自分の子どもや遊びに来てくれた近所の幼馴染の子たちの身長が刻まれていってる。

時々眺めると日々子どもたちの成長を実感できて、感慨深いなんとも言い難い気持ちになる。昔から柱に身長を刻むのは子どものためじゃなくて親のためであることを知った。

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