自販機のおふだに助けられた話。

みこと。

全一話

 帰宅途中に、奇妙なものがあった。


(こんなのあったっけ?)


 おふだの自販機。

 まれに神社とかに設置されているけど、町中でいきなり?


 めっちゃ怪しい!


 そう思ったのに。

 気がつくと、お金を入れていた。


 カトンと軽い音がして、おふだが取り出し口に落ちる。


(うわあぁ、買っちまった!)


 おふだって、粗末に捨てちゃいけないよな?

 とりあえず持ち帰るしか?


 何のおふだかもわからない一枚をポケットに突っ込み、俺はウチに帰った。




 ◇




 一人暮らし、小さな部屋。

 突然の転勤で、急ぎ探した物件。


 内見せずに借りて、引越した日。

 部屋に古びた縄が落ちていて、以来、不気味な空気を感じつつ住んでる個室。


 いつも通り真っ暗な部屋に、一歩入った途端。


 キイイイッッ!


 ポケットが鋭く揺れ、高い鳴き声が響いた。


 慌ててけた明かりの下で。


(黒い縄と、小さなケモノが格闘してる──)


 縄は蛇のようにくねり、動物は、イタチ?


(ええっ、何が始まったんだ?)


 縄もイタチもどこから来た!


 目の前で激しい応酬が繰り返される。


 優勢なのはイタチ。

 しなやかな細い身体で獰猛に牙をむき出し、暴れる縄を押さえ、噛みつき。

 そして。


 イタチが勝利した。

 

 縄が動きを止め、パタリとその場に落ちる。


 イタチが俺を振り仰ぐ。


「! ナッちゃん?!」


 地元の裏山で時折見かけるイイヅのナッちゃん! ……に、見えた。


「久しぶりだな、ライ


「喋った!」


「ん? ああ、言葉を交わしたことはなかったな。うむ。我は喋る。あやかしだからな」


「いやいやいや、えっ?」


 なんか突然カミングアウトされた!


「先日帰郷した折、ライがおかしな気配をまとわせておったゆえ、案じて見に来た。このに住まう悪霊に狙われておったようなのでな。おふだに変じて入れて貰ったぞ」


 あやかしは、招かれないと人家に入れないらしい。

 足下に押さえつけた古縄を見ながら、ナッちゃんが言う。

 それは確かに、引越し日に捨てたはずの縄だった。


 縄を依り代に、邪霊が俺を絞め殺そうと狙っていたらしい。

 コワ……!

 

 というか、勝手に名付けて親しんでたナッちゃんがあやかし

 道理で長生きだと。かれこれ十数年来の付き合いだ。


「時々は実家に帰れよ。では気をつけて暮らせ」


 そう言うとナッちゃんはさっと古縄をくわえ、窓を通り抜けた。

 残されたのは俺と、妙にすっきり感じる部屋。


(ナッちゃん、助けにきてくれたのか)


 不思議な縁故に感謝しつつ、次の休みはお礼に鶏肉でも買って帰省しようと考え。


 ハッ! おふだ代!

 万札だったよ、ナッちゃ──ん!!

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自販機のおふだに助けられた話。 みこと。 @miraca

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