おまえんち、お化け屋敷

リュウ

第1話 おまえんち、お化け屋敷

 路地を曲がると急に細い道となった。

 昔ながらの住宅地であった。

 私は、前を行く男に遅れないように速度を上げた。

 彼は、身長が高いので足が長く一歩一歩の距離が長く、私はそれだけでも遅れてしまう。

 彼が立ち止まって振り向き、私を到着を待っていた。

「ごめんなさい……歩くのが速すぎましたか」

 私は、急いで彼のもとに向かった。

「ここなんですけど」

 彼は、ポケットの中から鍵を取り出し、ドアを開け部屋に入って行った。

 暗く埃っぽく、うっすらとカビの匂いが鼻をかすめた。

 男は、ズンズンと部屋の奥に入って行き、日光で色が抜けてしまったペラペラなカーテンを避けると建付けの悪い窓を開けた。

 何となく思い風が部屋の空気をかき混ぜた。

 窓の外を眺めていた彼は、私の気配を感じて振り向いた。

「どうです。古いから雰囲気あるでしょ」

 彼は、不動産屋の店員で、私をこの家の内見に連れてきてくれた。

「お化け屋敷に住むのが夢だったんだっ言う、あなたの希望どおりでしょ」

 私は、部屋の中を見て回った。

 古い蛍光灯がチカチカして、いかにも何か出てきそうだ。

「庭をみてくださいよ」彼が言うので、私は窓によって庭を見た。

 手入れのされていない庭。草が生え放題だった。

 家庭農園でもしていたのだろうか、アスパラらしき草が伸びて風に揺れている。

「あれ、あれなんか雰囲気あるでしょ」

 彼が指差したのは、庭にある古い柳の木だった。

 不自然に曲がった幹、垂れ下がる多くの枝が視界を塞いでいた。

「あの木のところ、なんか出しょうでしょ」

 彼は、顎の下にだらっと両手を垂らした。典型的な日本のお化けの真似をした。

 そう、よく掛け軸なんかに書かれている幽霊の絵のような。

「ここなんかどうかな」と言いながら押し入れの中を覗いた。

「ほら、ここ」彼が手招きするので、横に行って押し入れの中を覗いた。

 彼のさす指を方を見ると、お札が張られたいた。

「本物か……」彼が呟く。

「お風呂も見てみましょうか」

 お風呂場に案内された。湿度が高い。

 風呂に蓋がしてある。彼が恐る恐る蓋をゆっくりと開ける。

 息をするのを忘れる程の緊張。

「何もなかったですね。でも、こわかったぁ」

 彼は、ふっと息を吐いて言った。

「壁、見ましたぁ。なんか血が飛び散った感じの染みがありましたね」

 肩をすぼめた。

 彼は、部屋の天井を眺めた。

「あの角なんかいいですね。長い髪の毛が段々下に伸びて来たりして」

 私が「いいですね」と言おうとした時、彼は唇に人差し指をあてシーッと言った。

「……聞こえませんか?さっきからパキパキとか言う音。ラップ音ですよ」

 私も耳を澄ます。 

「私、不動産屋なんで、わかるんですよ。ラップ音」

 そうなんですかと私は頷く。

「普通の家でも、音は出るんですよ。

 ”家鳴り”っていうんですけど、気温の変化とか、地盤の緩みとか、建物自体の老化が原因で音がするんです。

 さっきから聞こえている音は、説明できないですね。

 ラップ音、そう、ラップ音です。

 一人で居る時とか、寝る前とか、この音が聞こえたら気持ち悪いですね」

「確かに、いかにも出そうですよね」

 彼の顔を見て、頷いた。

「あっ、そうだ」彼は、脇に挟んでいた回覧でよく使うバインダーを私に見せた。

「明日から、入居するらしいですよ」とバインダーの写真を指差した。

「こ、ここでいいです。お願いします」

 私は即答した。こんなイケメンと暮らせるなんて夢だった。

「彼が眠るまで添い寝してあげるの」と思わず口に出していた。

「寝れるはずないですよ、幽霊の添い寝なんて」彼が呟いた。


「いい物件をお持ちなんですね」

「うちは霊専用の不動産屋ですから、当然ですよ」

 

 私には、明日からの新しい生活が待っている。

 生きてて良かった。

 いや、死んでてよかったかな。

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おまえんち、お化け屋敷 リュウ @ryu_labo

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