本作は、一族の男たちが背負う「宿命」と、日常の足元に口を開けた「異界」の境界線を、端正な筆致で描いた幻想小説です。
物語の舞台は、数寄屋門を備えた古い日本家屋。独り暮らしの叔父の急逝により、その家を継いだ青年・穣は、かつて叔父が口にした「けっして触っちゃいけないよ」という不可解な戒めを思い出します。庭に茂る「リュウノヒゲ」の葉陰に隠れた、宝石のように美しい瑠璃色の実。その禁忌の言葉と、突如現れた謎めいた女性「瑠璃」の存在が重なり合う時、物語は静かに、しかし抗いようのない速度で変貌を遂げていきます。
特筆すべきは、五感を揺さぶる「質感」の描写です。立ち上る茶の湯気、清潔に磨かれた仏壇、そして時折混じる、夏の盛りとは思えぬほど「ひやりとした肌の冷たさ」。著者は、目に見える日常を丁寧に積み上げることで、その裏側に潜む非日常の輪郭を鮮やかに浮き彫りにします。
一族の男たちが共通して持つ「枯れた隠者のような目」とは、一体何を見つめてきた果ての姿なのか。叔父の遺した手帳の断片が示唆する、美しすぎる実への「執着」の正体とは。
読者は、穣とともに誘惑の淵に立ち、神秘の予感に震えることになります。読み終えた後、あなたの家の庭に茂る名もなき草むらが、今までとは全く違う「顔」を持って見えるかもしれません……。
穂積叔父さんが亡くなり、彼の家である古い日本家屋を継ぐことになった甥の穣。
ところが、離れの方に家政婦が住んでいた。
瑠璃という名の若い女性。
彼女は、次の仕事が見つかるまで離れに置いてくれと言う。穣は条件付きで承諾。
こうして、古い家の中での二人の生活が、幕を開けるのだが……。
リュウノヒゲという植物がつける美しい実。
その実のことを、「竜の卵だから、人間は触っちゃいけない」という叔父さんの怪し気な言葉から始まる本作。
その後も瑠璃という人物を通して、どこか怪し気な雰囲気を感じながら読み進めていきますと……とても美しく官能的な物語世界へと誘われていくことになりました。
移り行く季節の中での、穣と瑠璃の暮らし……二人の心が徐々に触れ合い、近づいていく様子に、心を動かされること間違いありません!
是非ともご一読を!
叔父から古い日本家屋を引き継いだ穣。そこにいたのは瑠璃という名の謎めいた家政婦。
この家の離れに住んでいたという彼女は、次の仕事が決まるまででいいからしばらく住まわせてくれと言う。
そこから始まった二人の共同生活。瑠璃はどこか人間離れしたような雰囲気を持っていて、穣も薄っすらとそれに気付いています。
けれど、彼女に惹かれてしまった穣はもう引き返せない。
瑠璃が何者なのか察していても、そしてその先に何があるのか予想がついていても、穣は瑠璃を求めてしまいます。
瑠璃との幸せな日々を送るための代償はあまりにも大きい。それでも穣は彼女を手放す気はないのでしょう。
幻想的な情景の美しさの中にほんのりとした怖さの光る、人と怪異の物語です。
リュウノヒゲという植物をご存知だろうか。
細長い葉がこんもりと茂り、葉を掻き分けると根元近くに綺麗な瑠璃色の丸い実が付いている。ナンテンやセンリョウなどの赤い実はよく見かけるが、こんな真っ青な実は他に見たことがない。
叔父の家の庭にはリュウノヒゲが植えられていて、叔父には“龍の卵だから触れてはいけない”と言われていた。
急に亡くなった叔父の家を受け継いで住むことになった主人公のもとに現れた、叔父が雇っていたという家政婦の瑠璃は‥‥
瑠璃色の実をモチーフに描かれた幽玄で淫靡な物語。
きっとこの家に棲みついた龍の化身が、2800年にも渡って先祖代々の男たちを翻弄し、龍の子孫を残し続けているのだろう。
幻想的な美しさが印象的で、ホラーではあるが、これが幸せなエンディングのような安心感を抱いた。是非読んで頂きたい掌編です!