第11話(終) 『プレイ』は続く。

――丸ちゃんは所謂チートキャラかもしれない。

 玲奈は今更ながら思った。

 各教室と施設へを派遣し、学校中の『敵』を全員無力化。

 救出作戦は、実質的に一歩も動かず終了した。

 ただ、学生達が暴走して事故が起こらないよう、『敵』と共に全員眠ってもらったので、その辺りの違和感を上手く誘導してことにするのには一方ひとかたならぬ苦労をしたが……人質を取った敵に対して命の賭博ギャンブルをするのと比べれば、些事さじである。

 そもそも、最初から丸ちゃんが全部解決してくれていれば、と思わなくもないが、あくまでも『プレイヤー』の補助を行うのが補助要員である。『プレイヤー』が行動すればそれを助けるが、行動しなければ何もしない。そういる。


 結果、

「愛しい彼女の無事を祈っていたら、いつの間にかその彼女に撫でられていた件について」

 こうなった。

「寝惚けてるの? クリト」

 完全にすっとぼける玲奈。耳が赤くなっているのは仕様である。

「いや、さっき確かに『プレイヤー』狩りが……」

「えっ?」

 玲奈の声と表情に、ほんの僅かな別の動揺が走る。

 だが栗人はそれを「私の彼氏がわけわかんないこと言い出したんだけどこれやばくない?」と取った。

「あー、ごめん、なんでもない」

 この話を続けるのは栗人にとって色々な意味でまずい。

「そっか」

「ごめん」

「なんでそんなに謝るの?」

「うーん、夢で、まもれなかったから?」

 本音である。

「夢は夢じゃん、私は気にしないよ?」

「そりゃそうだよな、うん、ごめん」

「だ~か~ら~……いいけどさっ」

「あっ……えっと、ありがとう?」

「はい、よく出来ました」


……と、この会話を繰り広げているのは、教室で、である。

 当然、注目の的であるが、級友達クラスメイトは息を潜めて、身近なドラマを楽しんでいた。

 渦中かちゅうの隣の席の茜が、絶妙ぜつみょうな演技で起き上がるまでは。

「ふわぁ~あ、良く寝た……あれ? なんで寝てたんだろうあたし」

「茜ちゃん! おはよう」

「レナちん! おはよう」

 芸術的なまでの、変わり身の速さである。

「大州くんも、おはよう」

「おはよう、明石さん」

 挨拶を交わしている間に、続々と他の級友達も

 そのざわめきを背景に、茜は疑問を口にする。


「そういえばレナちん、先生は?」

 呼びに行ったはず……というところまではおぼええていたようだ。

「あ、なんか先生方皆体調崩したとかなんとかで自習だって」

 嘘である。丸ちゃんによって眠らされた結果、元々疲れ切っていた教職員一同が起きられなくなっているだけである。人員モ給与モ不足、とは客観的に分析した丸ちゃんの弁。

「そっか~じゃあ何して遊ぼっか?」

 殊更ことさら明るくなる茜の声。

「自習だよ、自習!」

 言っても無駄とは知りながらも、一応釘を刺す玲奈。

「あ、英語の勉強ってことにして、最近NASAが出したっていうTRPGでもやろうよ! 実は部活の後でやろうと思って用意してきたんだよね~」

 言いながら、鞄から一式入ったクリアファイルと小箱を取り出す茜。演劇部員である。

「それ! この間クリトが言ってたやつだ!」

「話には出したけど中身は知らないんだよね」

と言ったかどうかのうちに、栗人の背中へ衝撃が走る。

「イッテ」

「なら俺も混ぜてくれよ。初心者同志なら問題無いだろ?」

 わざわざ後ろへ回り込んできた多真内たまうち良樹よしきだ。体育会系の若干手荒い交流である。いつものことなので栗人もそれには言及せず、

「あー、いいかな、明石あかしさん」

「あたしには訊くけどレナちんには訊かないんだね?」


 無意識だった。

「それはっ……ごめん、玲奈」

「え、良いって全然、断るわけないし」

「はいはい、わかってるわかってる、以心伝心仲良し夫婦、ってことだよね」

 茜の言葉に、玲奈は敏感に反応した。

「おしどり夫婦、じゃないんだ」

「実はおしどりは、わりと一期一会なのだよレナちん」

 いくらか勿体ぶって言う。

「え~悲しくない?」

「自然界では一年間生き残ること自体が大変、ということなのだよレナちん」

「明石さん、相変わらずキャラブレッブレだなぁ」

「一人十役こなせます」

 圧倒的なドヤ顔、もといしたり顔である。演劇部ではこんな表情も練習するらしい。

「ま、歓迎してくれるってことで、早速やろうぜ!」

 良樹は話が早い。


「じゃあまずは概要から読んでいくね。えーと、400年後のことである」

「茜ちゃん、"past" だから400年前じゃない?」

「な、なんと……本当に英語の勉強になった」

「良かったね~」

 嫌味ではなく、茜の頭を撫で回す玲奈。

「挑戦するのは偉い! 俺なんか読む気にもなれん!」

 良樹は海外ドラマを観るようになったわりに文字は読みたくないらしい。

「どうせなら英語字幕でも観た方が良いっつったのに」

「すまん栗人。実は英字アレルギーがあってな」

「しょうがねぇな」

「はいはい男子達、続き読むから聞いてね」

「はい」

「おう」

「エクスラリスと呼ばれる惑星が、ある星――この場合 "star" は「恒星」だよ――ありがとレナちん! 恒星のハビタブルゾーン? 軌道を快適に周回して……」

 この心温まる交流が、薄氷の上に成り立っていることは、『神』ならぬ彼らには知りようもなかった。

 一方的に正体を察した玲奈が、それでも栗人と幸せに歩もうとするのは、また別のお話。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

NASAがTRPGを公開したのは、この世界が『プレイ』されている状態だって気付いたから? アハハッ、そんなまさかぁ。 源なゆた @minamotonayuta

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画