第9話「あなた、背景モブ令嬢ですねっ!?」


 その後は普通に会議が進んだが里子は納得がいかなかった。ロットのようなキャラは見覚えも無いし明らかに不自然だと謎の元悪役令嬢としての勘が囁くのだ。


「まだ考え事ですか?」


「課長……」


 会議終了後も上の空の里子に和男は声をかけていた。部下の、それも新人のケアは重要である。自分自身がブラック時代には無茶振りに次ぐ無茶振りで一年半で倒れたのを思い出すからだ。


「本命の仕事が重なっている中では自重して頂きたいのですが……次の悪質令嬢に仕掛けるまで三日有ります。夕実さんと研修がてら過去の資料を見てますか?」


「それって……」


「夕実さんが昨年、異世界から来る人間の法則性について話してくれたのですが正直、私にはイマイチ理解が出来ていなかった、でも里子さんなら……」


 この時の和男には三つの思惑が有った一つは純粋に新人の不安を取り除く事だ。しかし残り二つは打算だった。


「私なら?」


「私の気付かない観点とオタク知識で何とかしてくれるかも知れない。それに夕実さんは、ああ見えて最年少で年の近い貴女がケアに向いていると思います」


「あの、私が後輩なんですけど……」


「ですが、あちらは同僚として後は心許せる友人と見ているかと……だから頼みますよ里子さん?」


 そう言って和男は不安定な戦力が力を発揮できる環境に自然と送り込めたと内心で頷いていた。和男の打算とは里子の居場所を作り職場から逃げにくくする事と里子を使って悪質令嬢の行動心理を解明する事だった。


「は、はいっ!!」


「では、今日はこれで……定時です」


 そして和男は里子がチョロい事も見抜いていた。おだてれば木にも登るが里子の若さとパワーは使えると確信していた。だがそこで傍と気付く……自分も立派なブラックな上司だと自嘲していた。




「やっぱり変だと思うの」


「何がですか?」


 そして終業後のここは対策室の女子寮、その談話室で里子と夕実が本日の事を話し合っていた。


「ロットさんの事よ……あんな悪役令嬢……私は知らない!!」


「でも、もしかしたらなんですけど‥‥…」


 そこでの夕実の話は自分達も知らない古い悪役令嬢なのではないかという話で彼女は今日までそう結論付けていた。


「確かにオルガこと朱音さんの作品は私の愛読書だけど小学生の頃にアニメ化して、その頃はまだ悪役令嬢なんて言葉は無かった……」


「だから私達の知らない悪役令嬢なのかな~って……」


「うん、でも何か引っかかるのよね……ロットさんの存在が……」


 その日から里子の調査は始まった。ロットの実家から幼少期や家についての資料も取り寄せ彼女の作業場を覗き込んだりしたが何も成果は出ず調査は二日目に突入していた。


「どうですか里子さん?」


「あっ、夕実ちゃん……なんか素行調査の練習にもなってるから問題無いって課長は言ってくれてるけど無駄に過ごしてる気がして……」


「でも気になるんですよね?」


 そうなのだ。あの気取ったような少年っぽい仕草それに発明家なんてジャンルは割と存在していた。悪役令嬢は多種多様でジャンルは多い。だが一致する者は里子の中には存在していなかった。


「よく有るパターンは魔道具作ったり、こっちの世界に無い家電とかだけど普通の悪役令嬢は女の子っぽく料理に化粧品あとは家事とかで女子力を示すのよ」


 これは作者などの好みにも偏っているからだと里子は考えていた。何より悪役令嬢とは真逆な行為をすることで自分の凄さを見せつけると同時に虚を突くのが狙いだ。ぜんぜん悪役っぽくないと見せつけるのが狙いだ……。


「確かにそうですね……」


「悪役っぽくない……そういう風に見せている?」


「う~ん……でもロットさんって確かに私達の知ってる悪役っぽくないような……」


 そこも里子が引っかかる点で口調も男というよりは少年っぽく趣味は発明や機械いじりで明らかに悪役令嬢のパターンでは無い。そして夕実の言う通り悪役令嬢っぽくないという言葉にも里子は引っかかりを覚えていた。


「そうよね……な~んか遠いのよ悪役令嬢から異常なくらいに……」


 そこで里子は考えた悪役令嬢から遠い存在には二つ有る一つは目の前の夕実のようなメインヒロインではもう一つの場合は?


「悪役令嬢とメインヒロイン以外居ないと思いますけど……」


「あっ……いた、いたわ!! 正反対の立ち位置が!?」


 そして里子はついにロットことローズリット・ハイゼンダール元子爵令嬢の正体に気が付いた。




「まるで私が犯人みたいだ……これでも罪を償っている最中なんだけどね」


「あ~、すいません。でも分かった以上は黙ってられなくて、ロットさん!!」


 そして三日目の今日、里子は寮にいたロットそれに朱音と夕実の四人で談話室にいた。和男には明日報告して先に本人に聞き確かめようとしたのだ。


「なんだい?」


「あなた、背景モブ令嬢ですねっ!?」


「「はっ?」」


 里子の言葉に夕実と朱音は疑問符を浮かべたがロットだけは違った薄く笑みを浮かべたのだ。


「へぇ……どういうことかな?」


「あなたの生誕から逮捕までの資料を読み込みました!! あなたは地味な令嬢でメインヒロインや悪役令嬢では無かった!! つまり二年前よりもっと前から転生者である事を隠していた、違いますか!?」


「そうか……バレたか、お見事だよ里子さん」

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悪質令嬢症候群対策室課長・K A Z U O ~悪役令嬢は法令で処罰対象です~ 他津哉 @aekanarukan

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