ワンルーム『サキュバス』つき

あげあげぱん

第1話

 僕は怒っていた。


 この物件にはサキュバスが出るという話だったのに、実際にはそうではなかったからだ。


 さて、まずはサキュバスというものについて説明しなければならない。彼女らは悪魔のようなもので、夜に男の元を現れては生命力を奪う代わりに、むふふなことをしてくれると伝えられている。


 そして、僕が内見にやってきた、この物件はサキュバスが出るという触れ込みなのだ。


 引っ越し先を探していた僕は偶然この物件を見つけ、サキュバスが出るという触れ込みに引かれて内見を決意。わざわざ夜に物件を見に来た……だというのに!


 ここには何も無い。フローリングされた床と、白い壁と天井意外に何もない部屋だ。と、いうのは言いすぎたか。キッチンとかバスルームはついている。


 この狭いワンルームにはサキュバスのサの字も無い。僕にむふふなことをしてくれるHなお姉さんが見つからないのだ。流石にここで一晩を明かすわけにもいかないし……帰るしかない。


 僕はこの気持ちをどこに向ければいい?


 Hで美人なお姉さんに、むふふなことをしてもらうつもりでいた。だが、美人なお姉さんが居なければHでむふふなことは起こりようがない!


 僕はやりばの無い思いを胸に抱えながら、虚しさと敗北感を覚えながら、一人寂しく帰ることにした。


 夜遅く、まだ住宅の仲介の会社は空いていた。僕はその窓口で、係の女と話していた。地味目だが、化粧をすると化けるように思える。整った顔をしていた。と……そんなことよりだ。当然、僕はサキュバスに合えなかったことを抗議する。


「あなたがたはあの物件にサキュバスが出ると触れ込んでいましたがね! 出てきませんでしたよ!」


 僕は怒っているのに、係の女は落ち着いた様子で、口元には微小さえ浮かべている。


「もうしわけありません。しかし、あなたはサキュバスというものを誤解している」

「誤解?」

「はい。誤解です」


 そうして彼女は僕のために説明をしてくれた。


「サキュバスというものは夢魔に分類される存在でして、彼女らが現れるのは夢の中に限られるのです」

「では、夢の中でしか彼女らに合えないということじゃないか!」

「そうなります」


 それは困る。夢の中でしか会えないのなら。


「夢の中でしか会えないのなら、むふふなことができないじゃないか!」

「いえ、そうとも限りません」

「……どういうことです?」


 訪ねる僕に、彼女は「ここだけの話ですよ」と前置きをしてから言う。


「実はね。私の親友があの物件に住んでいたことがあるんです。結婚をして、引っ越してしまいましたがね。あそこで寝ると毎晩、サキュバスがやって来るというのです。夢の中に現れたサキュバスはまるで現実でことのように、むふふな体験を与えてくれたそうですよ。信じるか信じないかは、あなた次第ですがね。あの物件に住むことを強く進めますよ」


 その話は信用して良いものか。


 彼女は親友に騙されているかもしれないし、彼女が僕に嘘をついているかもしれない。だけど、僕は元々は引っ越しのための物件を探していたのだ。住宅費は少し高めだが払えないほどではない。


 僕は考えに考え。


「分かりました。ここに決めます」


 その物件に済むことに決めた。


「では、また」


 係の女は会社の外まで僕を送ってくれた。その時、彼女は妖艶な笑みを浮かべて、こう言った。


「また、夢で会いましょう」

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ワンルーム『サキュバス』つき あげあげぱん @ageage2023

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