A10-2


「……お前、やってくれたなぁ」

「まあ、ちょっとは反省してる」


 悪友の大きなため息が料理の香りに紛れて消えていく。今日も今日とてカナタの部屋にお邪魔し、夕飯を共にしていた。テーブルの上には肉汁たっぷりハンバーグ。子供舌のカナタの大好物だ。ちなみにチーズ入り。


 それはそうと、ここ数日のネット界隈はとある話題で持ち切りだった。何を隠そう「夢見るな配信切り忘れ事件」である。


「いやぁ、まさかここまで反響が大きいとは予想してなかったよ」

「お前なぁ」


 有り体に言うと、バズった。あの時の配信アーカイブに関しては既に該当箇所が見れないように編集された上で再投稿されているのだが、有志による切り抜きが大量に投稿され、それが拡散され続けている。あまつさえ同箱Vや他企業Vまでもが追い打ちをかけるように話題に触れるので、情報の拡散はもはや止まること知らない。


 特に、配信当日なんかはベストカップルGPに関するキーワードがトレンド上位に幾つも入り込み、挙句の果てには「ノンフィクション」なる単語がトレンド1位を達成してしまった。そこまで行くと逆に快挙である。


「あの後慌てて012に謝罪しに行ったんだけど、意外に事務所も乗り気っぽくて何のお咎めもなかったよ」

「まあ事務所としてはそうかもなぁ。十分すぎる結果を出してるわけだし。ベストカップル以上に目立ってるのは癪だけど」


 そもそもこの騒動に一番前傾姿勢なのが他ならぬ「ぜろいちに」である。るなさん本人の意思もあって公式では問題の切り抜きを投稿したりすることはないようだが、特にクオリティの高い動画をSNSで共有したりしていた。噂によると、るなさんにアーカイブを改めて全て上げなおしてもらえないか交渉中らしい。


 そして、この騒動によって「夢見るな」の知名度が爆上がりした結果、チャンネル登録者数が爆増した。ベストカップルGP開始当初は20万人だったものが、企画を通して着実に増え続け、最後のバズりで跳ね上がり、今や同期トップの「朝寝むい」に並ぶ35万人を突破していた。ちなみに陽のチャンネル登録者数も増え、もうすぐで20万人を達成しそうだ。


「本人はなんて?」

「ひたすらにコラボの誘いを催促されてるよ。じゃないと許しませんって」

「もはやどっちがコラボに誘ってんのか分からんけど」

「いやぁ、あれだけ恥ずかしい思いをさせちゃったのに、またコラボしてくれるって言うんだから有難い話だよ」

「仲がよろしいことで」


 そう言うカナタもイナムさんとのコラボ配信をすぐ控えているあたり、何だかんだ言って相性がいいのだろう。それを指摘したら二人とも「こんなのと仲良しなわけない!」と否定してきそうなのが目に浮かぶ。


「とはいえネットの反応も両極端って感じだけどな。どうせアンチコメントとかも大量に来てんだろ?」

「ん? まあ確かにDMは今までで一番届いてるけど、全部貴重な意見として今後の活動の参考にするよ」


 カナタの言う通り、例の事件については賛否が分かれている。あれはヤラセじゃないのかとか、先に切り忘れを指摘してあげるべきだとか。とはいえ、否定的な意見がある一方で「最高の最終回だった!」「るなちゃん可愛すぎる」「そもそもフィクションだって言ってるだろ」などといった肯定的な意見も多く見受けられる。それでもなお議論が白熱しているのは、当事者である自分とるなさんが沈黙を貫いているのが原因だろう。


「──で、どこまでがノンフィクションだったん?」

「それを聞くのは野暮ってもんだよ」

「それもそうだな」


 そう、深くを追及しすぎるのは野暮ってやつだ。結局のところ、フィクションであるか否かなんて受け取り手の判断に任せるくらいが丁度いいのである。だからこそ、こちらも細かくは言わないし、カナタもそれ以上の追及はしてこないのだ。


「陽、今回の企画どうだった?」


 ハンバーグの一切れを箸でつまみながら、カナタが聞いてくる。チーズが垂れそうなのが少し心配ではあるが、その時はカナタの自業自得というやつだ。


「めっっっっっちゃ面白かったよ」

「だろ?」


 カナタが得意げに笑う。今回の企画の大成功っぷりを思えば、それを咎められる者はいないだろう。出演者としても、最高に楽しい企画だった。騙されて出演することになったとはいえ、今ではそれも良い思い出話だ。るなさんとの初コラボ、Apeniteコラボ、カナタイムとのコラボ、VALEXコラボ、結果発表配信に至るまで最初から最後まで楽しくて仕方なかった。これから配信者として活動していく上で、この一か月を忘れることはないだろう。それくらい鮮烈で最高の思い出だ。


「そういえば第二回とかもやるの?」

「まあ、こんだけ反響があったからには第二回やらないわけにはいかないからなぁ。スケジュールがしんどいから直ぐにどうこうって話ではないけど、事務所とはぼちぼち話を進めてるって感じだな」

「そりゃそうか。でも、リスナーとして企画を楽しむのも全然ありだね」

「んあ? 何言ってんだ? 俺と陽は固定メンバーだから第二回にも参加だぞ? 事務所にももう許可取ってある」

「…………はい?」


 とんでも発言をするカナタに、思わずハンバーグを皿の上に落とす。事務所には許可取ったって、僕は何の許可も取られていないんですが。……しかしまあ、カナタのやることならきっと間違いはないのだろう。こいつはそういう奴だ、本当に敵いそうにない。


 どうやら、物語フィクションはまだまだ終わらないらしい。一体どこまで続いていくのか、少なくとも今はまだ誰も知らない。でももしかしたら、それはリスナー次第なのかもしれない。








―――――――――――――――――――――――――――

これにて一章完結です。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

二章については構想段階ではありますが、投稿予定です。


もし、面白かったと思っていただけましたら

いいね、コメント、レビューなど何でもお待ちしておりますので、

ぜひよろしくお願いいたします。


では、また二章でお会いしましょう。

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Q. 配信にてぇてぇは必要ですか?~合コン企画「ベストカップルGP」に騙されて出演したVtuberの末路~ きなこ軍曹/半透めい @kokiyuta0203

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