異世界ハウス

夏空蝉丸

第1話

「あんた、賃貸保証会社の人? ダメダメ、俺、絶対に出ていかないからな。このマンション」


 賃貸保証会社の人と呼ばれた伊勢は、にこやかな笑みを浮かべる。


「いえいえ、鴨田さん。私は賃貸保証会社とはちょっと違うお仕事でして、どちらかと言いますと債権回収業に近いという感じですかね」


 伊勢は自分の仕事の説明をすると、鴨田はそんなの全く興味がないと言わんばかりに目を細くする。このまま帰らないと、刺し殺すぞ。とでも言わんばかりの表情をしていて伊勢のことを威圧してくる。


 常人ならば、逃げ出すほどの殺気であるが、伊勢は笑みを浮かべたままだ。


「ご提案なのですが、住宅の内見に行きませんか?」

「話がわからねぇ奴だなぁ。俺はこの家から出る気はないの。先住権ってのがあるんだよ」

「賃貸借契約のお話ですかね。でも、鴨田さんは家賃滞納が半年ですから、強制退去を要求されても文句を言えない状況ですね」

「俺は病気だから払えねぇんだよ。あっあ!? 精神的に安定してねぇから。さっさと帰らねぇとナニするかわかんねぇぞ」

「それは困りましたねぇ。でも、その問題を解決する方法があるんですよ」

「ああん?」


 鴨田は凄んでいるが、伊勢の言葉に興味を持ったのは明らかだった。どうせ、強制的に追い出されるのであれば、金でも分捕ろうって態度が隠せていない。


「なんと、家賃がただの家をご紹介できます。今すぐに引っ越しをされるのであれば、引っ越し代、五十万円お支払いします」

「おいおい、美味しすぎるじゃねぇか。その話。俺を騙そうってんなら、止めておいたほうがいいぞ」

「家の中を見ていただいて、気に入らなければ断っていただいても構いません。ただ、その場合は、引っ越し代はお支払いできませんし、今回のみのお話ですから、次に興味を持たれても、こんなご提案は出来ないと思いますが」


 鴨田は値踏みをしようとしたが、伊勢に軽くかわされる。それでも、なんだかんだ言ってより良い条件を引き出そうとするが、伊勢が帰ろうとするとコロッと態度が変わる。


★ ★ ★


「で、ここが、その家ってやつか。かなり古めかしいじゃないか」

「そりゃあ、新築であの条件を出す人はいませんよ。では、止めておきますか?」


 鴨田は不貞腐れながらも、玄関に向かって進む。


「あ、一つ注意事項があります。異世界へ続く部屋がありますので、そこには絶対に入らないでくださいね」

「何だそりゃ」


 伊勢が玄関の鍵を開けると、鴨田は尊大な態度を崩さないまま家の中に入っていく。そして、正面の異世界って書いてある扉を開いて中に入っていく。


「私、ちゃんと説明したんですけどね。義務ですから」


 伊勢は笑顔のまま玄関の扉を閉めた。




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