アシュリーズベーカリー 〜焼きたてアップルパイを差し入れてくれる儚げ美少年幼馴染が五年後ガチムチマッチョになっていた〜(短編)

ジャック(JTW)

第1話 焼きたてのアップルパイ❀.*・゚


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「あっ、アシュリーちゃん、これどうぞ!」

 アシュリーの幼馴染のダンフォースは、町で一番大きな御屋敷の子供なのに、ぜんぜん気取らなくて優しい王子様みたいな人だった。

 アシュリーの誕生日にはいつも焼きたてアップルパイを届けてくれて、「将来はパン屋さんになりたいんだ」とはにかむ薄幸の美少年。細身の体に、サラサラの髪。肌ももちもちできめ細やかな、どこに出しても恥ずかしくない絶世の美少年だった。


 アシュリーは、「あたし、大人になったらダンくんのパン屋さんで一緒に働くわ!」と宣言した。その言葉は、同年代の子供が少ないこの小さな街では、実質、プロポーズの言葉に等しかった。


「……うん。約束だよ、アシュリーちゃん。一緒に、パン屋さん開こうね」


 小指と小指を絡め合わせて、幼いふたりは将来を誓い合ったのだった。



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 ここ(↑↑↑)までが、過去のお話。


 ここ(↓↓↓)からが、現在のお話。



「九十一、九十二、九十三……! フンッ!」


 アシュリーの目の前には、腕立て伏せをする巨漢がいた。

 ここ五年で一気に身長が伸び、剣闘士もかくやと言うほど体格が良くなり、髭も生え始めた。パン屋になるための筋力トレーニングを欠かさない、ダンディイケメンガチムチマッチョ体型のダンフォースがそこにいた。

『アシュリーちゃん、待ってよ〜……』と涙目で小柄で弱々しくぽてぽて走っていたあの頃のダンフォースはどこにもいない。

 フンッ!と勢いで林檎を素手で粉砕するパワーファイターもかくやという外見のガチムチ男性がそこにいる。


 

 とんでもない劇的ビフォーアフターである。

 Before→繊細で優しく、まるで林檎の妖精さんだと評された線の細いダンフォースくん10歳。

 After→林檎を素手で粉砕するパワーマッチョ系男子ダンフォースくん15歳。


 いつから……いつから彼はこんな……筋トレに取りつかれ──目覚めてしまったのだろう……?

 アシュリーが、白皙の美少年の面影を追い求めて少し寂しそうにすると、ダンフォース(15歳)は、首を傾げて心配そうにする。


「どうしたの、アシュリーちゃん(ド低音ボイス)」


 ダンフォースは、声変わりを迎えて、以前の鈴が転がるようだった可愛い声も消滅してしまった。今のド低音ボイスも腹の底に響くようで格好いいのだが。

 あまりにも差が……差が……凄すぎる……!


「だ、大丈夫。時間の流れについて考えていたの」

「……? よく分からないけど、体調が悪いわけじゃないんだね、よかった。ボク、筋トレに戻るね(ド低音ボイス)」

 ダンフォースは、にっこりと微笑んで、筋トレを再開した。彼の肉体は、もう充分過ぎるほどにキレキレのバキバキに仕上がっている。ムチムチの大胸筋、張りに張った上腕二頭筋、僧帽筋もこれ以上ないくらいに発達している。この国に筋肉を見せ合うコンテストがあったらもはや優勝間違いないのではないだろうか。もうこれ以上過酷な鍛錬をする必要はない気がするのだが……それでも、ダンフォースは、訓練を辞めない。


 *


「ねえ、ダンくん。ダンくんはどうして、そんなに沢山体を鍛えるようになったの?」

 アシュリーが尋ねると、ダンフォースは照れくさそうに笑った。

「……最近結構物騒でしょ? 頑張りたいって思ったんだ。あ、アシュリーちゃんを守れるように……(ド低音ボイス)」

 ダンフォースは、昔と変わらない赤みがかった優しい色の瞳で、優しくアシュリーを見つめ、はにかんだ。


「だって、ボク、アシュリーちゃんと一緒に、パン屋さんになりたいから(ド低音ボイス)」



 ──アシュリーは、その言葉を聞いて顔を赤くした。

 なんだかんだ、彼は優しいダンフォースのままで。

 外見が変わろうとなんだろうと、アシュリーの好きな人であることに変わり無かった。


「ダンくん! 大好き! 結婚しようね!」

「えっ、あっ、うん!(ド低音ボイス)」


 アシュリーは、顔を赤くしたダンフォースの胸に飛び込んだ。がっしりした体格も、ムキムキで格好いい。

 何よりアシュリーを守る為に自分を変えようとしてくれた彼の心根が、嬉しかった。

 昔は昔で、今も今。

 ──アシュリーはずっと、彼が大好きだった。



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 余談だが、彼等が将来開くパン屋の名前は、「アシュリーズベーカリー」。愛妻アシュリーの名前が町のみんなに知られて愛されますようにという願いがこもっているそうな。

 めでたしめでたし。

 マッスルマッスル。

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