第11話真打てぃーだ登場!

(なんだよ…面倒臭ぇな…)


すっかり“店仕舞いモード”になっていた金太郎は、億劫そうにてぃーだから千円札を受け取るとやる気なさそうに網を手渡した。


「ハイ…頑張ってね、ネーちゃん」


先程と違って、ギャラリーは半分に減り…しかも、誰もてぃーだが金魚を掬えるなどとは思ってはいない。なにしろ水槽の中には、今だにあの四天王が健在なのである。

てぃーだの実力を知っている祭親子やシチロー達でさえ、心配そうな顔でてぃーだの様子を見守っていた。


そんな祭親子の方を振り返り、てぃーだは宣言する。



「二人共よく見ていて!アタシがあなた達のリベンジ、しっかりと成し遂げてみせるわ!」


「ティダ…一体どうやって、あの四天王のブロックを交わす気なんだ…」


シチローにも、祭にも、てぃーだがどんな方法で金魚を掬うつもりなのか、さっぱり見当がつかなかった。


やがて、てぃーだは水槽の前の中央に前屈状態で立ち、両手を左右に大きく広げた。

そして、そのまま上半身だけを捻り網を持った右手を高々と上げると、その態勢でゆっくり瞼を閉じる。その奇妙だが、何故か迫力のある構えに半ば興味を失っていたギャラリーも、そして金太郎の父、金造も何かとてつもない事が起こるのではないかという予感さえ感じ始めたのだった。


水を打ったような静寂が、そのまま1分程続いた。そして…次の瞬間。


「リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャ!リャア!」


あまりに速い動きのてぃーだの腕は、祭やシチロー達にはその残像としてしか捉える事が出来ない。その姿はまるで…『千手観音』のようだった!


「16匹掬ったわ!」


まったく破れた様子も無い網を金太郎に見せ、続行を宣言するてぃーだ。


「なんて速さだ!…あれじゃ、四天王だってブロックのしようが無い!」


祭もシチローも、まさかてぃーだがあれほど凄いとは想像もしなかった。


「キャ~ティダ、かっこいい~」


賞金10万円の望みが出てきたと分かると、子豚とひろきも俄然活気が出てくる。


「10万円~あ、ソレ10万円~」


あれを見せられては、もう金太郎も賞金10万円の放出は覚悟しなければならないだろう。


「クソッ…最後の最後になって…ほらっ!あと4匹、さっさと掬っちまってくれ!」


半ばヤケクソ気味になって、てぃーだに続きを促す金太郎。


ところが、ここでてぃーだは驚くべき台詞を口にしたのである。


「そうね…あと4匹は、わ!」


「ええええぇぇぇっ!四天王を掬うだってえ~~っ!!」


「ちょっと!ティダ!いくら何でも調子に乗り過ぎだって!」

「そうよ!焼き肉パーティーが懸かってるのよ!」


さすがにこれは、いくらてぃーだでも無謀だと皆が思った。


大体が、物理的に考えてあの薄い紙が20センチ以上もある金魚の重さに耐えられる訳が無いのである。


その台詞を聞いて喜んでいるのは、悪徳店主の金太郎くらいなものだ。


「よ~し、ネーちゃん言ったな、是非ともやって貰おうじゃね~か!」


その様子を見てたまりかねた祭が、暴挙を止める為にてぃーだのもとに駆け寄った。


「てぃーださん、止めて下さい!アナタが失敗したら、リベンジはどうなるんです!」


しかし、てぃーだは冷静に答えた。


「祭さん、失敗するなんて誰も言って無いわ。

大丈夫、アタシを信じて…あの悪徳店主へのリベンジは四天王を掬ってこそ完結するのよ!」


てぃーだは本気であの四天王を4匹共掬う気でいるようだ。しかし…一体どうやって…


金魚すくい一筋四十数年の金造は、煙草の煙をゆっくり吸い込みながら、思案にくれていた。


(あの娘…あの4匹の巨大な金魚を掬い上げるなどと言っておる…

見たところ、確かに腕前は大したものだが、それだけではあの金魚を掬う事は出来まい。

儂が四十年以上の経験で見聞きした中でも、あれを掬う方法など…)


そして、さらに思案する


(ただひとつだけあるとすれば…いや、それは有るまい…あれは“伝説”の夢物語じゃからな……)



♢♢♢



再び、てぃーだは水槽の前に立った。先程の力みなぎった構えとは違い、今度は肩の力の抜けた直立不動…そして、右腕だけを額の前に持っていき空を見上げていた。


構えの変わったてぃーだの様子に、シチローが首を傾げて呟いた。


「何だろう?さっきとは違う構えみたいだけど…」


やがて、てぃーだは空に向かって何やら言葉を唱え始めた。


「……海よ…島人の魂よ…ガジュマルの森よ…我にチカラを与え賜え…」





ゴ…





ゴゴ…





ゴゴゴゴ…




「な…何?この地鳴りみたいな音…?」


遥か遠くから段々とその距離が近付いて来るように、大地を振動させるがごとく低い地鳴りが祭り会場に突如として響き渡った。水槽の水面が細かい波を立て、金魚達の動きが止まる。


その直後!てぃーだが大声で叫んだ!


!大山鳴動波~っ!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴ……


「あれは…まさか!」


金造のくわえていた煙草が、ポロリと地面に落ちた。


「リャアアア~ッ!!」


てぃーだが網を持った右手を力強く振り下ろすと、それと同時に水槽から何十という水柱が同時に湧き上がった!


「うおぉぉ~っ!なんだこりゃああ~っ!」


目の前の光景に、金太郎は座っていた椅子から転げ落ちた。


その水柱の上には、無数の金魚…そして、あの四天王までもが宙に浮いている。


ちょうどその時、祭会場の夜空に花火が上がり…宙に浮かび上がった金魚達を色とりどりの幻想的な光で演出していた。


「わぁ~キンギョさんキレイ~」


それを見たあゆみが、無邪気な笑顔で嬉しそうに声を上げた。


ポッチャァン!


やがて…宙に舞った四天王は、美しい放物線を描いててぃーだの持つお椀の中へと吸い込まれていった。


「ヤッタア~~凄いぞティダ~」


子豚とひろき。そして、シチローと祭までもが

抱き合って喜んでいた。


「ちょっと待てえぇ~っ!そんなの反則じゃねえか!網なんて使ってなかっただろ~っ!」


このままでは10万円の賞金を出す事になる店主の金太郎は、てぃーだが網を使っていなかった事を理由にてぃーだの今の行為を『反則』だと騒ぎ出す。


今まで散々インチキしておいて、どの口が言うのか…


そんな金太郎の方へと振り返り、てぃーだはすました顔でこんなキメ台詞を返した。


「愚かね…金魚は網で掬うものでは無いわ…金魚は…“心”で掬うのよ!」


「その通り!金太郎…お前の負けじゃ!」


勝負の一部始終を見ていた金造が、いつの間にかすぐそばにまで歩み寄っていた。


「いにしえの昔より…琉球の島人は海と共に暮らし、海と共に眠った…

その島人の中で派生した『魚を自由に操る術』…中国の気功を取り入れた奥義は、その絶大な威力ゆえ“一子相伝”として伝承され続けているという…まさかこの儂もあの伝説の奥義を生きているうちに見られるとは、思いもしなかったわい」


こうして、てぃーだの大活躍によって、祭親子のリベンジはものの見事に達せられたのだった。


その後、賞金10万円で例のごとく大宴会が行われたのは言うまでもないだろう。


そして…リベンジと言えば…


ここにもまた、がいた!



東京郊外…とあるゴルフ練習場…


カコーン!


「ナイスショットォ~会長~~っ」


「次は必ず子豚ちゃんに勝つ!!」


おしまい☆















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チャリパイEp8~産業スパイにご用心~ 夏目 漱一郎 @minoru_3930

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